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Posted by 中 相作 - 2014.09.22,Mon
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平成26・2014年9月20日 産経デジタル
巧みな伏線…手探りで描写した盲目の主人公の不安
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巧みな伏線…手探りで描写した盲目の主人公の不安
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巧みな伏線…手探りで描写した盲目の主人公の不安
★下村敦史さん『闇に香る嘘』(講談社1550円+税)
2014.09.20
連載:ブック
下村敦史さん
挑戦すること9回、最終選考に残ること5回目にして推理小説の老舗登竜門「江戸川乱歩賞」を受賞した。しかも同賞60回目と区切りのいい記念の年の受賞作は審査員の絶賛を浴びた。5日の贈呈式では、「心臓が止まりそう」と緊張を隠さず、新人作家の初々しさを見せた。 (文・竹縄昌 写真・野村成次)
--9回目での受賞。連絡を受けたときは
「今回も最終選考に残ったのはうれしかったんですが、何日か経(た)つと、今回もダメだろうなと。落選の連絡にどう受け答えしようかと、そればかり頭の中で練習していました。電話でいきなり受賞と言われて、『え?』みたいな気持ちでした。受賞を信じたとたんに、どんでん返しが待っているんじゃないかと思って、落選したときよりテンションが下がってしまい、周りにいた家族がてっきり落選したと思い込んでました」
--小説を書き始めたのはいつ頃から
「20歳を過ぎた頃、中学時代からの友人が、小説を書いていることを“告白”し、自分にも書いてみないかって。文章を書くのが苦手だったので、断っていたんですが、じゃ、プロットだけでも、と始めたのが最初です。それから週に1回、その友人に物語の作り方を教わっていました。1年ぐらい経って、物語を作ることに面白さを感じ、自分でも初めて小説を書いてみました。原稿用紙30枚程度の短い作品でした。2年ぐらいで20作書いて、ホラー小説大賞なんかにも応募したりしたんですが、1次選考にも全く通りませんでした」
--乱歩賞応募のきっかけは
「それが分からないんです。でも、他のコンテストの1次にも通らないときに、友人に乱歩賞に応募すると言ったら、“何を血迷ったことを”と言われてしまいました」
--しかし以来、乱歩賞一本で勝負された
「それまで自分の力がどの程度か全く見えない状況でした。でも、最初に応募した作品が1次通過して、名前が(「小説現代」に)載ったときはすごくうれしくて、もっと力を入れて1作に全力を尽くせば、上に行けるかもしれない、という基準が見えたのです。それがあって乱歩賞にこだわるようになりました」
--その翌年、みごと最終選考に残りました。
「ほんとうにビックリでした。落選しましたが、偉大な先生方に選評をいただけたことに興奮しました」
--落選を繰り返しても止めなかったのは
「1作、1作、自分なりに弱いところを意識して成長しようと思って書いてきました。最終選考に何回も残り選評の中身も違ってきて成長できたのも自信になりましたが、やはりまず家族、友人たち身近の読者がいたことで書き続けられたと思います」
--盲目の主人公の一人称の物語。なぜ
「前回は2次通過までだったので今までと違ったものをと、挑戦のつもりで書いた作品です」
--中国在留日本人孤児も取り上げました
「3度目、4度目に最終候補に残った作品で、カンボジアの地雷の被害者を扱い、その辺りから苦しい立場の人たちを取り上げるようになりました」
--今回の受賞作品で苦労されたのは
「目の見えない主人公の不安をどれだけ読者に感じてもらえるように書けているだろうか、という点です。ほんとうに手探りでした」
--伏線が多数仕掛けられています。プロットは何度も練られた
「乱歩賞は締め切りから逆算して、半年でプロットを作って3カ月で執筆して3カ月で20回から30回推敲(すいこう)して応募していました」
--でも乱歩賞60回目の受賞者に
「運命的なものは感じました。間違って過去の4回で受賞していたら今の自分はなかったと思います」
--受賞後第1作は
「来年1月の刊行を目標に長編を書いていますが、受賞作と全く傾向が変わって、警察小説です。受賞作の評価が高過ぎて、このレベルじゃまだまだだめだし、ハードルを越えていないので、不安だけがあります。もっともっとがんばらないと。とにかく一作一作、自分の持てる力を使って目の前の作品を満足、納得できるものにしていきたいですね」
■あらすじ 今年1月末締め切りの第60回江戸川乱歩賞受賞作。全応募349編から最終候補は5作。応募時の『無縁の常闇に嘘は香る』を改題。
69歳の村上和久は41歳で全盲となった元カメラマン。小学生の孫娘は腎不全で、和久の腎臓の腎移植手術が必要だったが、既に移植に適さなくなっていた。和久は代わりに3歳違いの兄の竜彦に依頼するが、竜彦は頑(かたく)なに移植を拒絶する。和久兄弟の一家は満州からの引き上げ家族。
しかし竜彦はその途中、中国人家族に預けられ、和久が失明してから帰国した中国残留孤児だった。兄の顔を知らない和久は、兄の態度に、兄を騙(かた)る別人ではないかと疑心暗鬼が広がり、真実を追い求めようとする。
一方、和久に送られてくる不気味な内容の点字俳句や密入国事件も絡み、物語は深みを増す。巧みに仕掛けられたさまざまな伏線が終盤に見事に回収される。思い込みは物語の最後まで裏切られる。
■下村敦史(しもむら・あつし) 1981年、京都府生まれ。高校時代、剣道の厳しい特訓と勉強の板挟みに悩み、若気の至りで中退。大検合格。その剣道は2段の腕前。家族の理解もあり、江戸川乱歩賞に応募を続ける。これまで1次通過を皮切りに2次通過2回、最終選考4回などの成績で、審査員にもなじみの応募者となっていた。『小説現代9月号』掲載の短編「死は朝、羽ばたく」も好調だ。
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