Nabari Ningaikyo Blog
Posted by 中 相作 - 2014.07.29,Tue
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毎日新聞
平成26・2014年7月22日 毎日新聞社
SUNDAY LIBRARY:岡崎 武志・評『井田真木子著作撰集』『ガタロ』ほか
岡崎武志
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平成26・2014年7月22日 毎日新聞社
SUNDAY LIBRARY:岡崎 武志・評『井田真木子著作撰集』『ガタロ』ほか
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SUNDAY LIBRARY:岡崎 武志・評『井田真木子著作撰集』『ガタロ』ほか
2014年07月22日
◇この人を忘れさせてなるものか
◆『井田真木子著作撰集』井田真木子・著(里山社/税抜き3000円)
44。それが大宅賞ノンフィクション作家・井田真木子の享年だ。2001年の訃報に驚いた。これから、どんどんいい仕事ができる人だったのに。神は残酷だ。
それから13年、出世作『プロレス少女伝説』も、遺作『かくしてバンドは鳴りやまず』も、いまや新刊では入手不可能。そんなバカなと、たった一人の出版社・里山社の清田麻衣子が世に問うのは『井田真木子著作撰集』。先に挙げたほか、傑作ルポ『同性愛者たち』も単行本未収録エッセイも、ぎゅうぎゅう詰めにした。
大陸育ちの両親、若い頃出した詩集、夜中の長電話癖など、井田真木子について、知らないことばかりだ。いま普通に使われる「心が折れる」は、女子プロの少女たちの意気地と煩悶を描いた『プロレス少女伝説』取材で、井田が神取忍から引き出した言葉だった。
井田と取材対象者との間に、「魂の契約」が交わされていたと発行人は見る。忘れさせてなるものかと「切実な本」が出た。よかったなあ、井田真木子。
◆『ガタロ』絵=ガタロ(NHK出版/税抜き2300円)
絵=ガタロ、文=中間英敏による『ガタロ』は異色の画集。NHKで放送され、大きな反響を呼んだ。「ガタロ」と名乗る画家は、広島の商店街で清掃員をする傍ら、絵筆を握ってきた。「毎日ゴミを扱いよると世界が見えてくる」と、描く世界は、例えば仲間が飯を食う姿。握りしめた箸と湯気のたつ椀。力強い描線から「生きる」意味を問う。あるいはモップ、ブラシなど清掃の道具。そして広島の風景。巧拙や美醜を超え、人の目を釘付けにする。
◆『マレーシア航空機はなぜ消えた』杉江弘・著(講談社/税抜き1500円)
杉江弘『マレーシア航空機はなぜ消えた』を手に取り、未解決の事故(事件?)を思い出した。今年3月8日、乗客乗員239名を乗せ、姿を消したB777機。諸説飛び交ったが、いまだ実態は不明のまま。元日本航空機長が、航空史上最大のミステリーに挑む。謎を解くカギは「エーカーズ」(衛星による通信システム)にあり。これが作動していたか否か。自らの飛行経験から、諸説を検討し、情報を精査した結論は? スリリングな読みもの。
◆『胡蝶殺し』近藤史恵・著(小学館/税抜き1400円)
SUNDAY LIBRARY:岡崎 武志・評『井田真木子著作撰集』『ガタロ』ほか
歌舞伎界を扱った小説は数々あれど、これは異色のテーマ。近藤史恵『胡蝶殺し』は、梨園を背負う同年代二人の子役が主人公。女形の父親が急逝し、後ろ盾を失った秋司。7歳にして踊りに非凡の才を見せる。彼の後見人となった萩太郎には、俊介という息子がいるが、才能は秋司が上。いつか二人で「鏡獅子」で胡蝶を踊るシーンを夢見るが、トラブルから秋司の母親と不穏な仲に。歌舞伎界という特殊な世界の裏側を描くミステリー。
◆『ニッポン周遊記』池内紀・著(青土社/税抜き2400円)
旅の名人、池内紀『ニッポン周遊記』は、観光というより、地方の町のたたずまいに目を凝らす。たとえば図書館が元気な町は、過疎でも生き生きとしている。長野県・大町市では、町の医院の看板にある赤い矢印に導かれ、意外なものを発見する。千葉県・銚子では「海だ」と思ったら広い河口。そのスケールに目を見張る。和歌山県・高野町では宿坊に泊まり、朝のおつとめにフランス人有志と加わる。自在な心と視点が、日本文化の核を見届ける。
◆『第七官界彷徨・琉璃玉の耳輪 他四篇』尾崎翠・著(岩波文庫/税抜き760円)
今回、岩波文庫に収録された『第七官界彷徨・琉璃玉の耳輪 他四篇』の著者・尾崎翠は、40年以上前に死去。活躍したのは昭和初期。長らく忘れられた存在だったが、再発見され、今ではカルト的人気のある作家。代表作「第七官界彷徨」は、兄二人や従兄の炊事係として、同じ一軒家に住む小野町子の物語。五感を超える「第七官」に響く詩を書くつもり。しかしノートは空白のまま。この奇妙な同居生活を、ユニークな感覚で描き、いまでもみずみずしい。
◆『映画狂時代』檀ふみ・著(税抜き新潮文庫/630円
檀ふみが編んだ、映画愛あふれる小説とエッセイ全16編を収めるアンソロジー『映画狂時代』。武田百合子、谷崎潤一郎、小津安二郎、向田邦子、松本清張、三浦しをんなど豪華な布陣。「私は活動写真を見ていると恐ろしくなります」と乱歩。「映画を好む人には、弱虫が多い」と太宰。いかにも言いそうなのがおかしい。感動は末尾の檀一雄。映画界入りする娘・ふみに宛てた一文は、行く手を案じつつ、「悔いないように奮闘してほしい」とエールを贈る。
◆『宮脇俊三鉄道紀行セレクション 全一巻』小池滋・著(ちくま文庫/税抜き1000円)
SUNDAY LIBRARY:岡崎 武志・評『井田真木子著作撰集』『ガタロ』ほか
鉄道話を文学にまで高めたと言われるのが、故・宮脇俊三。その全著作から、今読んでも面白い作品を集めて『宮脇俊三鉄道紀行セレクション 全一巻』が成った。編者は小池滋。代表作「時刻表2万キロ」など、今は廃線となった路線も含まれるが、かえって失われた風景を偲ぶよすがとなる。昭和53年の「最長片道切符の旅」は、同じ駅を二度通らず、一筆書きで北海道から九州まで、なるべく多くの路線を踏破する旅だ。酔狂と神髄ここに極まれり!
◆『牛を屠る』佐川光晴・著(双葉文庫/税抜き528円)
2009年に解放出版社から刊行された『牛を屠る』が文庫化。牛や豚の解体作業を通して、働くこと、生きることの本質に迫る。巻末に、佐川光晴と平松洋子との対談(文庫版オリジナル)を収録。人生は流れであるという感覚について、「のめり込んでいた場所でできる限りのことをやったら、次の世界が始まっていく」という著者の言葉は説得力がある。「自分の手と直結した何かを使って働」(平松)いたからこそ紡げる言葉があると知る。
◆『日清戦争』大谷正・著(中公新書/税抜き860円)
それは120年前、1894年夏、朝鮮の支配を巡り、日本と中国(当時「清」)が衝突、戦闘体制に入った。世に言う『日清戦争』だ。大谷正は、いま一度、この「近代日本初の対外戦争の実像」(副題)を検証する。結末は日本の勝利、となっているが、実態はどうか。李鴻章が戦争回避に努め、欧米列強もまた調停に乗り出しながら、開戦に踏み切った理由は? 1880年代の東アジア地域の情勢を踏まえつつ、この戦いの真実を今、明らかにする。
◆『漱石「こころ」の言葉』矢島裕紀彦・編(文春新書/税抜き730円)
今また漱石が読まれているそうだ。矢島裕紀彦編の夏目漱石『漱石「こころ」の言葉』は、作品はもちろん、書簡を含む、文豪が遺した言葉のなかから、今に生きる名言を、自我、学問、正義、覚悟、恋愛と家族など、テーマ別に精選する。「私はすべての人間を、毎日毎日、恥をかくために生まれてきたものだとさえ考えることもある」は『硝子戸の中』より。「恋を解決するものは恋より外にないです」(『野分』)など、妙に身に沁みる言葉ばかり。
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おかざき・たけし 1957年生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。近著『上京する文學』をはじめ『読書の腕前』など著書多数
※3カ月以内に発行された新刊本を扱っています
<サンデー毎日 2014年8月3日号より>
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