Nabari Ningaikyo Blog
Posted by 中 相作 - 2014.06.19,Thu
「乱歩の恋文」というお芝居について、さらにいささかを記しておきたいと思います。
考えてみれば、乱歩と隆子というのはとても不思議な夫婦で、これは「乱歩の恋文」でもそういう設定になっているのですが、乱歩は女に執着することのできない男であり、隆子は手紙にほだされただけで手を握ったこともない男との結婚を思いつめてしまう女であって、ふたりのあいだにゃまともなドラマは成立せんのやないかと思われますけど、夫が本格探偵小説という理想とエログロ小説という現実とに引き裂かれ、絶望的なまでの精神の危機を抱え込んでしまったとなれば、妻が秘めていた妹の力が発動して、萎縮し、枯渇し、人形みたいに横たわるだけの存在になってしまった夫の生を賦活化する、というまことにダイナミックなドラマが現前することになりました。隆子は鳥羽の出身なんですけど、あのあたり、妻は海に出て海女ちゃんなんかで働き、夫は昼間っから酒くらったり博打したりしてだらだらしてる土地柄、という印象が私などにはあって、そうした印象が隆子による乱歩の救出劇をより彩りの深いものにしていたようでもありましたけど、やっぱ、田舎というのも大きかったのではないか。
妹の力という太古のパワーは、鉄とコンクリートでできた劇場よりは木と土でできた芝居小屋においていきいきと、さらには、都市から遠く離れて前近代と地つづきになってるような田舎においてこそより力強く表現されるものなのではないか、と私は思いました。
その舞台上、糸あやつりの人形芝居をみせる紅座という小屋の内部で、隆子がパワー全開の長ぜりふによって乱歩をなんとか救出したあと、突如として大音響が耳を聾します。
小屋の解体作業がはじまっていて、壊された壁から明るい光がなだれ込み、なにやら「赤い部屋」の幕切れを思わせて、昭和9年のエピソードはこれにて終了。
つづいては隆子の白昼夢で、大正7年、鳥羽の坂手島で女先生になった女の子が、造船所に勤める平井太郎という青年から届いた手紙を読んだところで、「コーンコンコン……と船の帰港を知らせる高い板木の音」が聞こえ、女の子の胸に突然、ある感情が生まれてきたところでお芝居はおしまいとなりますが、私はこの終幕に観客として立ち会い、不覚にも落涙しそうになったことをここに告白しておきたいと思います。
今回の「乱歩の恋文」、二回公演に五百人が詰めかけたそうです。
劇作家大会、無事に終わり、片付け済んで帰って来ました。 てがみ座は2回公演で、500人の方々に観て頂きました。永楽館という素晴らしい劇場で、出石の温かい方々に支えられ、楽しく素敵な毎日でした! ありがとうございました! 次回てがみ座は11月、東京と豊橋で新作です!お楽しみに!
— 秋津ねを (@kaoneo) 2014, 6月 16
永楽館での再演は、たぶんなし。
東京その他で再演される、というのも、かなり望み薄だと思われます。
ごらんになれなかったかた、どうも残念でした。
せめて、こちらでもどうぞ。
▼Togetterまとめ:てがみ座「乱歩の恋文~芝居小屋バージョン」永楽館まとめ
ではでは、山田風太郎記念館永楽館ゴールド劇場おふたりさまツアーでお世話になったすべてのみなさんに深甚なる謝意と敬意を表しつつ。
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