Nabari Ningaikyo Blog
Posted by 中 相作 - 2014.06.18,Wed
6月15日、日曜、はれ。
「乱歩の恋文」の千秋楽は、といったって、前日が初日だったわけなんですけど、明治34年開業の芝居小屋、永楽館で午前11時に幕を開けました。ほぼ満席のにぎわいで、当方は二階席から観劇。
花道に袴姿の男が現れ、ゆっくり歩きながら手にした原稿を読みあげると、客席のざわめきはたちまち引いてゆきます。
男が読んでいるのは、「新青年」の昭和9年4月号に掲載された「『悪霊』についてお詫び」という文章で、とかこまごま書いてた日にはいつまでたっても終わりませんから、さーっとはしょって、さて「乱歩の恋文」、つつがなく閉幕を迎えました。
私はこのお芝居、2010年の初演をDVDで拝見していたのですが、などと記すと、DVDながめただけで芝居みた気になってんじゃねーよこのすっとこどっこい、とおっしゃるかたが必ずやわいて出てくるはずなんですけど、ほんにそのとおりでございます、と申しあげたうえでさらにつづけますと、今回の芝居小屋バージョンはあたかも初演のごとき新鮮さでみることができました。
それはもちろん、公演会場のちがいによってもたらされた感覚で、私は先日、永楽館にかんしてこんなことを記しました。
「なにしろあんな面白い劇場ですから、演出の専門家の手にかかれば永楽館ならではの演出プランがぽんぽん出てくるはずで、そうなるとこの公演、劇団vs劇場のバトル、それも現代の劇団にとっては異種格闘技戦に近い戦いになるのではないかしら、とも推測される次第です」
これはこれでまったく見当はずれな推測でもなかっただろうとは思いますものの、実際に観劇したあとでは、「乱歩の恋文」という現代演劇と永楽館という古い芝居小屋とが、思いもよらぬほど高い親和性を示していたことに一驚を禁じえませんでした。
2010年の初演の舞台は、いうまでもなくとても面白く、とくに主役を張った女優さんの熱演が印象的でしたが、見終わったあとには金属質の残響のようなものが耳の底で響いていたような記憶があります。
しかし今回は、終幕に聞こえてきた木の音、戯曲からそのまま引けば「コーンコンコン……と船の帰港を知らせる高い板木の音」が遠く長く尾を引いているように感じました。
そんなのは、木造の劇場でみた、という事実から生じた思い込みではないか、とおっしゃる向きもありましょうけど、それはそうだとしても、そう感じたのは事実であって、ことほどさように、「乱歩の恋文」の芝居小屋バージョンは、作品と小屋とがしっくり調和を保ちつつ新鮮な印象で迫ってまいりました。
で、これはいったいなんなんだろうな、ということなんですけど、ただ単に、大正から昭和初年にかけてという作品の時代背景が劇場のたたずまいにぴったりだった、というだけではなくて、木造の古い小屋が女主人公の女性性をくっきりと際立たせた、ということではなかったのか。
女性性、といってしまうとなんだかあいまいですけど、要するに妹の力というやつではないのか。
妹の力、は、いもうとのか、じゃなくて、いものちから、って読んでね。
永楽館という古い芝居小屋、それも、都市ではなく地方に存在する芝居小屋が、女主人公の妹の力をきわやかに描き出すことに大きく関与していたのではないか、という気がします。
とかいっても、お芝居をごらんになってないかたには、なにがなにやらさっぱりおわかりにならんでしょうから、簡単にご紹介申しあげておきますと、昭和9年のとしはじめ、乱歩はもうぼろぼろになってたのね。
「新青年」の水谷準からは、「悪霊」のつづきを書けと矢のような催促。
しかし、書けない。
どうしても書けない。
乱歩は重大な精神的危機に直面し、どうしようもなくなって失踪してしまいます。
乱歩の奥さん、平井隆子は、乱歩を追って浅草を訪れ、糸あやつりの人形芝居をみせる紅座という小屋に足を踏み入れます。
で、あれこれいろいろさまざまなことがあるわけですが、隆子は妹の力によって乱歩を無事に再生させました。
同じ昭和9年の夏、夢の世界からうつし世に帰還した乱歩は、すっかりくつろいじゃってもうこんな感じ。
昔はこんな風に作家の消息(この場合は乱歩の池袋転居)が小説誌の口絵に載って、いやがうえにもキャラ化していたわけですね。乱歩夫人「日の出の原稿(黒蜥蜴)は明日とりに参りますが、もうお出来になりましたか?」乱歩「あゝ、もう少しだ」 pic.twitter.com/6LJdr6lhut
— 芦辺 拓 (@ashibetaku) 2014, 5月 14
めでたしめでたし。
しかし、こんなことでは、「乱歩の恋文」を紹介したことにはならんかもしれんなあ。
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