Nabari Ningaikyo Blog
Posted by 中 相作 - 2014.03.26,Wed
なんか乱歩の小説みたいだな、とも思います。
むろん、『奇譚』活字化の件ですけど。つまり、だれでも思いつくけどだれも実行しないこと、みたいな話が乱歩の小説にはわりとよく出てきます。
たとえば「屋根裏の散歩者」の場合、アパートに天井裏がある、ということはだれでも知っていて、天井裏に潜り込んで散歩したら天井板の節穴から住人の私生活を覗き見できるな、というあたりまではだれだって思いつきますけど、しかしそんなことを実際にやってみるやつはいないだろう、とふつうの人間なら思います。
しかし、乱歩の小説の主人公は、実際にやってみるやつはいない、と思われることをほんとにしでかしてしまうわけです。
奇想天外というほどのことではまったくなくて、むしろきわめて日常的な場所にいながら、あれよあれよとみてるまに一線を越えた世界へ突っ走っていってしまう主人公。
サウイフモノニワタシハナリタイ、と思ってるわけではありませんけど、いつのまにかそういうものになってしまってるのかもしれません。
おーこわ。
さて、『奇譚』ですけど、『奇譚』を活字化して本にすることにどれだけの意義や価値があるのか、ということになりますと、これはもう読者次第、ということになってしまいます。
一般的な読者にはほとんど意義や価値を認めてもらえないはずだ、ということはよくわかりますけど、さりとて、自分は乱歩作品が好きだ、とおっしゃるかたにも、はたしてどれだけの興味をおぼえていただけるものか。
ただし、乱歩のことをよく知りたい、調べたい、研究したい、とおっしゃる向きには不可欠の資料であることはまちがいありません。
ですから、商業出版社が商品化して流通させることは望めないにしても、世に存在しているべき本であることはたしかで、だとすれば名張市立図書館あたりが名張市民の税金で、といったって『奇譚』一冊を出版するのなんて名張市全体における税金の無駄づかいに比べれば微々たる額で済むんですけど、ちなみに名張市における最大の無駄づかいはむろん人件費であって、なんであそこまでのうすらばかを正職員として雇ってんだよこら、みたいなのがごろごろしてんだぜほんとに、みたいことはどうでもいいことにして話を進めますと、『奇譚』は単に学生時代の乱歩がその時点での読書歴や文学観をうそも飾りもなく披瀝した一冊であるというにとどまらず、結局そこに回帰してゆくことになる世界を明瞭に示した一冊でもあります。
つまり乱歩は、作家としては探偵小説から早々に撤退して、奇譚の世界で小説を書きつづけたわけです。
このあたりの事情については、風間賢二さんのこの一冊から引いてみたいと思います。
▼2014年1月9日:怪奇幻想ミステリーはお好き? その誕生から日本における受容まで
第十一回「乱歩と久作」から引用。
おもしろいのは、乱歩は少年時代に黒岩に夢中になり、青年時代には谷崎や佐藤、そして宇野浩二の順番に心酔し、作家デビュー時にはポーやドイルに感銘を受けていましたが、創作は初期=ドイル、中期=谷崎、後期=黒岩といった具合に、自らの文学体験の始原へと遡っていったのです。
文学体験の始原へ遡る、というのは、すなわち、『奇譚』の世界に回帰する、ということにほかなりません。
ですから『奇譚』は、作家デビュー前のただの筆のすさび、といったものでは全然なく、乱歩という作家の全体像に近づくためには不可欠の資料、つまりは乱歩研究に貴重な一石を投じることになるはずの一冊で、乱歩のことを研究したい、とおっしゃるみなさんからはその意義や価値をおおいに認めていただけることであろうと自負しております。
それから、ここでお伝えしておきますと、数日前、『奇譚』の本文といっしょに『奇譚』をテーマにした論考を収録してもいいのではないか、というアドバイスをメールで頂戴したのですが、ライブラリアンとしては一次資料として『奇譚』を活字化するのが第一の目標で、というよりはそれだけでもう手いっぱい、とても二次資料のことまでは頭がまわらず、せっかくのご助言に添うことができなくて恐縮ではありましたものの、現時点におけるそういった方針を簡単にご説明申しあげた次第でした。
『奇譚』をどう読み、どう料理するか、といったことは読者のみなさんにおまかせするとして、こちらは正確でできるだけ読みやすいテキストをお届けすることにまず注力したいと考えてはいるのですが、そんなこととはかかわりなく、お気づきのことはなんでもお知らせいただければとてもありがたく思います。
どうぞよろしくお願いします。
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