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Nabari Ningaikyo Blog
Posted by - 2024.11.23,Sat
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Posted by 中 相作 - 2013.11.04,Mon

 うっかりしてる、うっかりしてる、とかそんなことばっかいってると乱歩ファンのみなさんからお叱りを受けるかもしれませんけど、意に介することなく話を進めますと、乱歩最大のうっかりは、いうまでもなく『幻影城』巻頭における探偵小説の定義でしょう。

 いくたびもいくたびもくり返し述べてきたことをあらためてくり返すために、昭和26年5月10日、岩谷書店から出版された『幻影城』から「探偵小説の定義と類別」の冒頭を引用いたします。

 念のため、スキャン画像で引用いたします。


 ここに秘密ということばを使用してしまったことこそ、乱歩の探偵作家人生最大のうっかりだと思われます。

 秘密ではなくて謎ということばを、乱歩は使用すべきでした。

 ここはやっぱ、秘密ではなくて謎でなければ変だよね、というのは、いわば自明のことでしょう。

 たとえば、乱歩の「一人の芭蕉の問題」から引用。

探偵小説に求むる所のものは普通文学に求め得ない所のものである。これを仮りに謎と論理の興味と名づける。探偵小説に求むる所は謎と論理の興味であって、人生の諸相そのものではない。探偵小説にも人生がなくてはならない。しかしそれは謎と論理の興味を妨げない範囲に於てである。

 ひとは探偵小説に「謎と論理の興味」を求めるのですから、『幻影城』巻頭の定義だって、

 「難解な秘密が、論理的に、徐々に解かれて行く」

 ではなくて、

 「難解な謎が、論理的に、徐々に解かれて行く」

 となっていなければおかしい。

 だというのに、乱歩はうっかり、これはまさしくうっかりと呼ぶしかないことだと思われますけど、秘密ということばをつかってしまいました。

 じゃ、この秘密ということばはなんなのか、というと、これはもう明らかに、「新青年」に自伝を連載するにあたって起筆されながら筐底深く封印されてしまった原稿に記された秘密ということばと照応しているはずです。

 その原稿は「私が探偵小説に心酔するに至った経路」という小見出しを立てられ、「私の探偵趣味は『絵探し』からはじまる」と書き出されていて、みたいなことは私家版無料電子書籍『涙香、「新青年」、乱歩』に詳述しましたから省くとして、当時の私は「絵探し→探偵小説」だと単純に考えていたのですが、その後、手製本『奇譚』の存在に思いあたり、じつは「絵探し→奇譚→探偵小説」だったんだな、と気がついたのが運の尽き、暇さえあれば『奇譚』と首っ引きというこのところの因果な毎日も、もとはといえば乱歩がうっかりしてたから、ということになります。

 なんか、とんでもないことに手をつけちゃったな、とか思いつつ、きょうも敢然と邁進いたしましょう。

(60)

 CORELLI = コノ人モ原作ハ一ツモ読マヌ。只涙香ノ一訳書アルノミダ。ソレハ Ven Detta(白髪鬼)デ何デモ題名モ示ス通リ復讐奇譚ト云フ事丈ケハ覚エテ居ルガ、内容ヲスツカリ忘レテ了ツタカラ批評ガ出来ヌ。後日ニ譲ラウ。二三 Marie Corelli ノ作ヲ上グレバ、

Holy Orders, The Tragedy of a Quiet Life
The Mighty Atom
Boy, a sketch
God's good man
The Master-Christian

其他涙香ノ探偵方面ニハ大金塊 巧ナル狂言ニヨツテ大金塊ノ相続者ト偽ル悪人夫婦ガ遂ニソノ陰謀ヲ発見セラルヽ迄ノ波瀾曲折我天一坊ト同様ノ趣ガアル。作者不詳。銀行ノ賊 確カ面白カツタト記憶スルガ今ハ忘レテ了ツタ。只尾行者ヲ撒クノニ他人ノ家ニ入

(61)

ツテ裏口カラ抜ケル方法ヲコノ書デ始メテ教ヘラレタヿ丈ケ覚エテヰル。妾ノ罪 アル夫人ガ己ノ罪ニ苦シメラレル間ノ物凄サガ味デアル。確カニハ覚エヌ。前二者共ニ米人ノ作デアルガ名ハ分ラヌ。
 MARCHMONT = 涙香ノ探偵方面ハ以上ニ終ツタガ、コレヨリ少シク彼ニ似タモノヲ掲ゲテコノ章ヲ終ラウト思フ。Arthur W. Marchmont ノ探偵小説中去年上野ノ図書館デ読ンダノニ Miser Hoadley's Secret ト云フノガアル。原文デ読ム故カ Corelli ナド訳文デ読ンダモノヨリ面白ク感ジタ。 Hoadley ナル吝嗇漢ガ不正ノ宝石商ヲ営ンデ莫大ノ金ヲ溜メタ。ソノ娘ハ typist デアル青年ヲ恋シテ居ル。Hoadley ニハ一人ノ仇敵ガアルソノ仇ヲ打ツテ呉レト娘ニ遺言シテ死ヌ。ソノ時財産ノ隠場所ヲ示シタ暗号文ヲ渡ス。娘ノ恋人ガ仇ノ子(?)デアルナドノ曲折アリ。暗号文ガ type-writer ノボタンノ順序ニヨツテ解キ得ル様ニナツテ居ル所ニ味ガアル。結末ハ目出度ク終ツテ居ルガ、最モ主要ナル点ハ暗号文ニアル。暗号文丈ケガ書物ノ二三頁モ続ク程永イモノデアツタ。コノ書ノ中ニ Jew ノ大々的 Broken English ガ沢山出テ

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居ツタノデ何カノ参考ニモト写シテ置イタノダガ何時カソレヲ失クシテ了ツタ。彼ノ作ヲ二三上グレバ。

The Heritage of Peril
The Price of Freedom
The Queen's Advocate


露国ノロア、イ、ラウロフト云フ探偵小説家ガアル。長谷部湘雨ガソノ作ヲ訳シテ恋仕掛ノ殺人犯ト云フノヲ出シタ。山中ノ淋シイ宿ニ一人ノ陰欝ナ青年ガ泊ツタ。夜突然近クノ景色ヲ見ニ出ルト云フノデ番頭ハ審シク思ツテ止メタガ無理ニ出テ行ク。夜更ケテ青年ハ帰ツタガ突然表カラ声ヲカケタ儘ソノ地ヲ去ツテ了フ。番頭ガ不審ニ思ツタノハソノ声ガ先ニ似ズ非常ニ快活ニ変ツタ居ツタコトデアツタ。翌朝山中ノ谷ニ墜チテ死ンデ居ル死体ガ発見サレタ。ト云フ書キ出シガ先ヅ面白イ。永ク外国ヘ行ツテ居ツタアル富豪ガ一人ノ娘ヲ連レテ帰国ノ途ニアル。ソレハ彼ガ選定シタ婿ニ娘ヲ目合セン為デアル。突然彼ガ車中ニ死ンデ了フ。ソノ原因ハ少シモ分ラヌ。娘ガ独リボツチニナツテ降車スルト婿トナル青年ガ迎ヘニ来テ居ル。写真デ見タリ兼ネテ聞イテ居ツタリ

 「変ツタ居ツタ」は「変ツテ居ツタ」でしょう。

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シタ青年トハマルデ違ツテ非常ニ快活ナ男デ又好男子デアル。ソノ日停車場ノ構内ニ印度ノ毒蛇ガ現レテ人々ヲ驚カシタ。名探偵ノ聞エアル Hero ガ富豪ノ死ト毒蛇トヲ結付ケ遂ニ婿トナル青年ヲ疑ツテ、彼ト花々シイ頭脳ノ戦、意志ノ戦ヲ開ク。ソシテ遂ニ真相ヲ曝クト云フ筋。原作者ハ知ラヌ人ダガ必ズ近頃ノ人デアラウト思ハレル。近頃ノ仏蘭西ノ探偵小説ニ見ル様ナ。悪人ト探偵トノ精力ノ争ヒ、剣道ノ達人ガ気合ヲ以テ勝負ヲ争フ、アノ種類ノ心ノ力ノ争ヒヲ描イタ所ニソノ近代的特徴ガ現レテ居ル。実ヲ云ヘバ茲ニ書カズ、モツト後章ニ記スベキ性質ノモノデ、上記ノ凡テヨリモコノ精神的ナル点デハ確カニ勝ツテ居ル。
岡本綺堂ハヨク探偵小説ヲ訳スル。ソノ一ツニ金貨ト云フノガアル筋ハ忘レタガ左程面白イト云フ記憶ガ残ツテ居ラヌ。又彼ハ近頃ノ文芸倶楽部ニ幽霊ノ旅、黒沢家ノ秘密ナド云フ探偵人情小説ヲ出シテ居ル誰レノ飜訳ダカ知ラヌガ余リ感興ヲ引カヌモノダ。無論アル物凄サハアルガネ。
其外色々ナ人ガ色々ノ探偵小説ヲ書イテ居ル魔法医者ト云フノモアル、昔袖珍探偵文庫

半七捕物帳ソノ他、松井松葉ノ悪人手形帖(帳)

 「半七捕物帳」などの注記は天のマージンに記入。

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ト云フノモアツタ。近頃呉田博士ヲ出シタ書肆カラ探偵文庫ガ出テ居ル。其他上ゲレバ数限リナクアルデアラウガ以上記シタモノヽ外ハ皆語ルニ足ラヌモノガ多イ。

 これで『奇譚』第二編「涙香その他」は第四章「ガボリオと素人」と第五章「ボアゴベ、コリンズ、ならびに、マーチモント、コレリ」を終え、第六章「デュマとベンジソン」に突入いたします。
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