Nabari Ningaikyo Blog
Posted by 中 相作 - 2010.12.19,Sun
横溝正史と江戸川乱歩(2)
乱歩の「双生児」を受けて、正史が「same subject」を素材に執筆した「双生児」。双生児の弟が兄になりすますという主題は両者に共通しているものの、前者ではなりすました弟の心理に焦点が絞られるのに対し、後者ではなりすましかどうかに疑問を抱く兄の妻の心理が浮き彫りにされて、主題は異なった展開を見せています。
自作を語るにおいてじつに饒舌だった乱歩は、「双生児」についてどう述べていたのか。電子書籍もどき「涙香、『新青年』、乱歩」にいささかを記しましたので、まずそのあたりを引用しておきましょう。
「屋根裏の散歩者」が書かれたのは大正十四年六月のことで、「恐ろしき錯誤」の脱稿から二年後にあたります。この二年のあいだに、乱歩の小説作法にはある修正が加えられました。独自の探偵趣味を探偵小説に親和させるため、「屋根裏の散歩者」がそうであったように、乱歩はトリックと探偵趣味とを分離する手法を身につけました。手始めは「双生児」です。この作品では裏返しになった指紋というトリックが使用されていますが、「探偵小説十年」に述べられているとおり、それは「ホンのつけたり」で、「鏡にうつる自分の顔と全く同じものが、生きて動いている怖さ」を描くことが乱歩の主眼でした。乱歩の探偵趣味は、二重身がもたらす恐怖として、くっきりした輪郭を与えられました。探偵趣味を探偵小説の布置や興趣とは別のものとして、探偵小説という形式を破綻させかねない何かしら過剰なものとして、作品内に忍び込ませる。それが乱歩の手法でした。
「探偵小説十年」以外から「双生児」への言及を引きますと、まず『柘榴其の他』の「後記」。
トリックはこれも普通の指紋小説の裏返しで、余り上出来ではないが、作者としてはトリックよりも寧ろ殺人までの経過に興味を持った。又、殺人の際に、自分と全く同じ顔がバネ仕掛けのようにグーッとこちらを振向いてくる怖さが、私には異様の魅力となっていた。
つづいて、桃源社版乱歩全集の「あとがき」。
顔から服装から寸分のちがいもない二人の男が、一方は被害者、一方は加害者としての殺しの場面に興味を持って、この小説を書いた。ある程度その気持は出ていると思う。
乱歩が「双生児」で描こうとしたのは、自分が自分を殺す恐怖、あるいは、自分が自分に殺される恐怖でした。しかし、二重身による殺人という悪夢めく光景は、探偵小説ではなく怪奇小説や恐怖小説の主題にこそふさわしいでしょう。何から何までそっくりな双生児を探偵小説の素材とするのであれば、どちらがどちらとも見分けがつかないという一点から生じる疑問にこそ、ジャンル本来の妙味が見出されるのではないか。
正体をめぐる疑問。それこそが、探偵小説の謎としてふさわしいのではないかと思われます。たとえば正史の「犬神家の一族」。戦地から頭巾をかぶって帰ってきた青年は、はたして本当に犬神佐清なのか。ほかの人間が佐清になりすましているのではないか。読者にそんな疑問を抱かせることで、つまり、なりすますほうではなくなりすまされる立場に立つことで、正史は遺産相続をめぐる骨肉の疑心暗鬼を際立たせ、探偵小説の推進力として利用します。
つづく。
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