Nabari Ningaikyo Blog
Posted by 中 相作 - 2013.10.26,Sat
しつけーよーだけど、きのうは大分市が公開しとったぞ。
さて、乱歩生誕百二十年を記念して乱歩蔵びらきの会が世に問うはずの『奇譚』の件ですけど、著作権の問題には眼もくれず、第一編「春浪及其他」全文を追記つきでお届けいたしました。
乱歩に興味があるひとのみならず、明治なかばに生まれた読書好きの少年がどんな小説を血肉として成長したのか、みたいなことが手にとるようにわかりますから、児童文学に関心があるひとにも有益な一冊になるのではないかと思われます。
もちろん、飛ぶような売れゆきをみせる商品にはなりません。
しかし、乱歩という作家のことや、この国の探偵小説、あるいは児童文学の歴史をよく知りたい、研究したい、というひとにとっては、おそらく必読必携の基本文献にはなるはずです。
つまり、潜在的な必要性、みたいなものが、いまから見込めるわけです。
で、せめてそれくらいのことは見込もうな、という話になります。
つまり、乱歩生誕百二十年の記念事業としてなにをやったっていいんだけど、事業の必要性とかいうやつを考慮してみようね、ということです。
このあたりのことは地域雑誌「伊賀百筆」第二十三号の漫才にも書きましたから、関係各位はぜひご購読くださいな。
てゆーか、そのあたりのことは公開ページに出てきますから、いちどよく読んでくださいな。
てゆーか、特別大サービスで当該パートを引用しちょいちゃるけ。
「まず重要なポイントがあります」
「事業を成功に導くポイントですね」
「必要とされている事業をやるゆうことが重要です」
「それはごくあたりまえのことや思いますけど」
「けど君あの伊賀の蔵びらきの数多い事業のなかで必要とされていたものがなんぞありましたか」
「いろいろあったんとちがいますか」
「しょせん学芸会の域を出るものやなかったですね」
「なんで学芸会ですねん」
「学芸会は出演する子供の身内とか関係者からは必要とされてても世間一般の人には関係ありませんから」
「ほな伊賀の蔵びらきも世間一般の人にはいっさい無関係で必要とされてなかったゆうことですか」
「右も左もわからん田舎もんが身内だけで盛りあがって喜んでるご町内イベントばっかりでした」
「そうゆういいかたはひどいと思いますけど」
「あんなもん税金三億円がばらまかれると聞きつけてから大あわてで自分たちの趣味や道楽の延長上に一円でも多くの税金を囲い込もうと目の色を変えたあさましくて欲の深い乞食連中が泥縄式にでっちあげたすっとこどっこい事業を野放しにしただけでしたがな」
「ようそこまで悪口すらすらと出てきますな」
とにかく、伊賀の蔵びらき事業の二の舞いだけはしないように気をつけねーとな。
それから、公開ページだけでなくて、未公開ページにもとてもたいせつなことが書いてありますから、関係各位は「伊賀百筆」第二十三号、ぜひぜひお買い求めくださいな。
それでは、『奇譚』のつづき、きょうも元気に行ってみよう。
(37)
BOOK II.
RUICOW AND OTHERS
(38)
(A)
探偵的涙香
[黒岩涙香ガ飜訳小説ヲ著シタル年代順ニ随ツテ各作家訳者ノ批評ヲスル事ニシタ。]
(39)
CHAPTER 4.
GABORIAU ト丸亭素人
涙香 = 小学生ニ読マセタラ必ツト黒岩涙香ノ文章ハ下手ダト評スルデアラウ。或ル点ニ於テコノ評ハ当ツテ居ル。彼ノ文ハ日本文法ニ適ハヌ誤ガ多イ。文語口語時ニ混淆サレテ居ル。会話ノ言葉、殊ニ婦人ノ言葉ナドハ極メテ真ニ遠イモノダ。ソノ上誤字ガ多イ。僕モコレラノ理由ニヨツテ一時ハ彼ハ想ニ於テ面白イ事ヲ書クガ文章ハ下手ダナト思ツテ居ツタ。然ルニ此頃ハ何ウダラウ。ソレガ正反対ニナツテ了ツタ。普通ノ小説家ノ書ク文章ガ却ツテ気障ニ見エ涙香ノ文章ニ言フベカラザル味ガ出テ来タ。想ノ如キハ近頃ノ新シイ人々ノ作ニ劣ルケレドモ、文章ニアル親シサヲ感ズルノデ涙香ノ作ハ今モ読ミ度イ。
彼ノ文ヲ読ムト恰カモ酸イモ甘イモ噛ミ分ケタ分別者ノ意見ヲ聞ク様ナ感ジガスル。普通ノ人ガアンナニ廻リクドク書イタラ見ラレタモノデハナイガ、彼ガ書クト幾ラ廻リクドクツテモ、
「必ツト」は「きっと」と読むのではないかと思います。
(40)
ソノクドイ所ガ面白イカラ妙ダ。涙香ト同時代恰カモ水蔭ノ春浪ニ於ケルガ如ク、彼ト併立シテ Gaboriau, Du Boisgobey 等ノ探偵小説ヲ訳シタ人ニ丸亭素人ト云フ人ガアル。処ガソノ素人ノ訳シタモノハ同ジ原作デモ涙香ノ様ナ味ガナイ。只モウ新聞ノ三面記事ヲ書ク様ナ調子デ何ノ技工モナク訳シテアルノデ少シモ面白クナイ。訳者ノ相違ニヨツテ原作ハヨクモ悪クモナル事ガヨク証セラルヽ。
聞クナラク、涙香ハ原書ヲ一読スルト、訳サネバナラヌ要点ニ線ヲ引キ、新聞ニ出スノナレバ大体ノ回数ヲ定メ、ソレ丈ケノ数ニ原書ヲ区分スル。然ル後、彼ノ線ノアル所ノミヲ主トシテ後ハ勝手ニ取捨増減シ、自分ノモノトナツタ文章ヲ書クノダ相ナ。彼ノ小説ノヨク消化シテ居ルノニハ斯ウ云フ原因ガアル。彼ハ彼ノ所謂異様ニ文章ヲ書カウト力メル。彼ハ事ノ次第ヲ廻リクドイ簡単ヲ以テ一読明瞭ナ様ニ記ス天才ヲ持ツテ居ル。彼ノ天人論ガ深遠ナル哲学ヲ平明ニ説キ得テ、浅薄ノ誹ヲ招ク程デアツタノハ、実ニ彼ノコノ特徴ノ然ラシムル所デアル。
然シ、彼ハ僕ノ最モ共鳴スル Poe ノ眩惑
(41)
的天才ハ勿論持ツテ居ラヌ。彼ノハ天才ト云フヨリモ努力ノ結果ト云ベキモノヲ豊富ニ所有シテ居ル。随ツテ彼ニアレ以上ノ深サアル探偵小説ヲ望ム事ハ無理デアル。Poe ノ詩、短文ハ彼ノ訳シ得ヌ所ダ。訳シテモ極メテ原文ニ遠イモノトナルデアラウ。ソコヘ行クト和製ノ Hugo ト云ハレタ森田思軒ハ適任者ダ。彼ノ間一髪ハ或ル点迄 Poe ノ天才ト一致スル天才ヲ以テ訳サレテアル。
日本デ最モ我 Curious novel ノ理想ヲヨク自カラ embody シテ居ルモノハソノ量ニ於テ質ニ於テ両者ノ積ニ於テ涙香ヨリ外ニハナイ。僕ハ次ニ出ヅベキ探偵小説家ニハ涙香ニ加フルニ Poe ヲ以テシタ人ヲ望ミタイ。涙香ノ小説ヲ大別シテ二方面ニ別ツヿガ出来ル一ハ探偵小説及ソレニ類似ノモノ。他ハ探偵小説以外ノモノ。後者ヲ更ニ分ツテ(1)怪奇小説(Thrilling novel)(2)伝奇的人情小説(一種ノ Romance)(3)科学的小説(Scientific novel)☆トスルヿガ出来ル。(1)ハ例ヘバ幽霊塔、岩窟王ノ如キモノ。彼ノ訳書中最モ大物ノアル Category デアル。Dumas ノモノヲ Thrilling novel ナド云フノハ失礼カモ知ラヌガ、他
☆(4)探検小説(exploratory novel)
「云ベキモノ」は「云フベキモノ」だと思います。
「☆」は忘れてたものを追加するために使用した記号で、追加分「(4)」は地のマージンに記載。
(42)
ニ適当ナ名モナイ。(2)ハ噫無情、野ノ花ノ如キモノ、単ナル人情小説例ヘバ恋ノ小説ナドト異ル所ハ伝奇的ナルニアル。plot ニモ変化ガナケレバナラヌ。涙香ノ筆ハ plot ガナカツタナラバ立タヌ。plot ニ沿ツテ彼一流ノ人情ヲ説ク所ニ味ガ湧ク。彼ノ人情観ハ極メテ常識的ダ。随ツテ平凡単調タルヲ免レヌ。単調ダカラ plot ノ変化ヲ以テ之ヲ補フノ外ハナイ事ニナル。単調トハ云フモノヽ噛ンデ含メル様ニヨク突込ンダ筆致ヲ以テ人情ヲ描ク所ハ真似ノ出来ヌ美点ダ。明治初期ノ小説ナドニ比スレバ情ニ於テモ説キ得テ妙ナ所ガ少クナクハナイ。只彼ハ詩人ノ紅ナル熱ヲ欠ク。説教僧ノ深切ニ近イ所ガアル。ソコニ長所モアレバ短所モ存スル。(3)ハ Verne, Wells 等ニヨツテ代表セラルヽ物理的化学的天文学的小説デアル。コノ方面ノ作ハ三ツシカナイ。暗黒星ハソノ一ツダ。涙香ハ科学的ノ頭ヲ以テ居ル。分析綜合ナドニ〓〓〓ガアルラシイ。随ツテコノ方面ノ訳モ上手ニ出来テ居ル。直訳ニ陥ラヌ常識的ガ大イニ助ケトナル。(4)ハ Haggard ノ作ニ見ルガ如キ奇怪ナル探検小説デアル。コノ方面ノ作
「以テ居ル」は「持ツテ居ル」でしょう。
「〓〓〓」は判読不能。
【2013年10月30日追記】「〓〓〓」は「才能」でした。【追記終了】
お暇なかたは『奇譚/獏の言葉』を開いてご検討ください。
【2013年10月30日追記】上の追記のとおり自己解決しましたので、ご放念ください。【追記終了】
(43)
ハ二ツシカナイ。山ト水及人外境ガ之デアル。以上五項目悉ク僕ノ好ム方面ナラヌハナイ。之レ僕ノ涙香ニ共鳴スル所以デアル。之ヲ要スルニ涙香ハ奇怪ナル小説ヲ円転滑脱ノ筆ニ訳シタ日本一ノ Curious noverist ダガ、我理想ヨリスレバ未ダ々々遠イ。殊ニ彼ハ飜訳家ニシテ創作家デナイノダモノ、日本ハコノ方面ニ貧弱ダナア。
──────────
以下彼ノ訳ヲ年代順ニ配列シテ重要ナルモノニハ原作者ノ全体ニ亙ツテ批評シ且ツ他ノ訳者ト比較スル。
法庭の美人 原名 The Dark days ヒユー、コンエイノ訳。勿論読ンダ事ハアルノダガ今ハ忘レタ。批評シ得ナイ。
GABORIAU = 仏ノ Emile Gaboriau ハ一時日本ニモ盛ニ輸入セラレタ。米ノ Poe ガ Dupin、英ノ Doyle ガ Holmes ノ如ク彼ハ Lecoq ナル探偵ヲ Idol トシテ彼ノ探偵小説ヲ書イタ。コノ点ニ於テ Poe, Doyle, Gaboriau ハ世界ノ三人ト称スル事モ出来ル。探偵法ニ於テモ Poe, Doyle ノ精ナル点ヲ欠クモ
「noverist」は「novelist」。
「法庭ノ美人」は「法廷ノ美人」。
(44)
中々巧ミナル Deduction ガ用ヰラルテ居ル。然シ彼ノ主人公 Lecoq ハ現ハナル野心家デアル。他ヲ排シテ自ガ独リ長官ニ認メラレヤウトスル様ナ、多少探偵ノ俗臭ヲ脱シテ居ラヌ所ガアル。Doyle ハ彼ノ Lecoq ヲ "Study in Scarlet" ニ於テ Holmes ヲシテ次ノ如ク批評セシメテ居ル。
"Lecoq was a miserable bungler, he had only one thing to recommend him, and that was his energy. That book made me positively ill. The question was how to identify an unknown prisoners, could have done it in twenty four hours. Lecoq took six month or so. It might be made a text-book for detective to teach them what to avoid."
随分痛烈ニ罵倒シテ居ル。コレハ Ga 氏ノ Lecoq, The detective. ヲ云ツタモノラシイ。英訳ハ種々アツテ、之ヲ Monsieur Lecoq
英文、大嫌い。
(45)
ト云フ題ニシテ居ルノモアル。他ノ探偵ハ分リ切ツタモノトシテ安心シテ居ル時 Lecoq ハ私ニ疑ヲ抱イテ独リ探索ノ歩ヲ進メル。雪ノ上ノ足跡ヤ種々ノ微細ナル遺留品ニヨツテ賊ノ行動ヲ手ニ取ル如ニ推断スル辺リハ Du Boisgobey ナドノ及バヌ deductive ナ所ガアル。ケレドモ Doyle モ云フ如ク余リニ結末ガ遠イ。ソノ為ニ折角ノ興味ヲ失ヒ探偵ノ手腕ガ落チテ見エル。然シ批評ハスルモノヽ、アレダケノ探偵小説家デモヨイ我国ニ在ツタラト思フ。Poe, Doyle サテハ近頃ノ探偵小説家例ヘバ仏ノ Gaston Leroux 等ヲ除ケケバ一寸彼ニ及ブ探偵作家ヲ見出サヌ。
The Lerouge Case 寧ロ前者ヨリモアル点ニ於テ味ガアル。犯人ガ何モカモ凡テアル一人ニ疑ノカヽル様綿密ナル注意ヲシテ殺人ヲ行フ服装カラステツキニ至ル迄ソノ通リノモノヲ着シテ犯罪ヲ行フト云フ辺リニ僕ノ興味ハ集ツタ。ソレガ段々曝露シテ行経路亦面白クカヽレテアル。"Lecoq" ノ方ハ丸亭素人ガ大疑獄ト題シテ訳シテ居ルガ、訳筆極メテ拙ダ。Lerouge Case ハ涙香ガ多分有罪無罪(?)ト題シテ訳シタモノガアツタ様ダ。
「如ニ」は「如クニ」。
「行経路」は「行ク経路」。
(46)
涙香ノ Gaboriau ヲ訳シタモノニ大盗賊 人耶鬼耶 他人ノ銭 等ガアルガ皆今ハ忘レテ了ツタ。素人ノ訳ニカヽルモノモ多クアルト思フガ之ハ知ラナイ。
Gaboriau ノ作ノ英訳ニナツタモノ二三上グレバ。
File 113
死美人。Old age of Lecoq, the de.
Last Adventure of Lecoq, the detective
Mystery of Orcival
Paris of Lecoq, the de.
死美人ハ old age of Lecoq ラシ二冊ノ長篇。古ノ小説ハ気ガ永イ。涙香ハ Lecoq ヲレコツク先生ト云フテ居ル。彼ガ巴里ヨリ本ヲ取寄セルト云フノト矛盾シテ居ル。
Blackmailers
今ノ世ノ奇蹟(涙香創作)
最後の行は追記されたものです。
【2013年11月3日追記】「死美人」がガボリオの作とされていますが、この「La vieillesse de Monsieur Lecoq(The Old Age of Monsieur Lecoq)」はガボリオが創造したLecoq探偵を主人公にボアゴベが執筆した長篇で、当節のことばでいうところのパスティーシュですから、本来であればガボリオではなくボアゴベの項で扱われるべき作品です。【追記終了】
(47)
このページは白紙です。
しっかし、大丈夫かよ、著作権。
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