Nabari Ningaikyo Blog
Posted by 中 相作 - 2010.12.17,Fri
横溝正史と江戸川乱歩(1)
昭和4年。横溝正史は「新青年」2月増刊号に奇妙な短篇を発表しました。タイトルは「双生児」。こんな英文で始まる作品です。
A sequel to the story of same subject by Mr. Rampo Edogawa.
sequelは続篇の意。ですからこの英文は、江戸川乱歩による同じ主題の小説の続篇、といった意味になります。しかし実際には、続篇と呼べるほどの共通性や連続性は認められません。登場人物が共通しているわけでもなければ、舞台が連続しているわけでもない。まさにsubject、つまり主題が踏襲されているだけで、作者である正史がみずから表明しなければ、これが乱歩作品の続篇だと察しをつける読者はひとりもいないのではないかと思われます。
両者を比較してみましょう。どちらの作品にも男の双生児が登場し、兄には妻がいます。乱歩の「双生児」では、弟が兄を殺害して兄になりすまし、兄の財産と妻をわがものとします。兄の妻はかつて弟の恋人でしたが、その妻にも気づかれることなく、弟は兄として生活を送ります。しかし犯罪に手を染め、殺人を犯して、死刑を宣告されてしまいます。「ある死刑囚が教誨師にうちあけた話」という副題に示されているとおり、刑の執行を控えた弟が兄になりすました完全犯罪を私という一人称で告白する内容です。
正史の「双生児」は一人称で書かれた小説ではありませんが、作中に手記が挿入されています。自殺した女が主治医に書き置いた遺書です。「先生、私が殺した男は、いったい私の夫なのでございましょうか、それとも夫の敵なのでございましょうか?」と問いかけながら、女は自死を選びました。夫の敵と書かれているのは夫の弟、つまり双生児の片割れです。女は、夫である兄がいつのまにか弟と入れ替わっているのではないかという疑問を抱き、恐怖に捉えられますが、この遺書が事実かどうかは「いまとなっては神のみが知りたもうところである」と作品は結ばれます。
つづく。
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