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Nabari Ningaikyo Blog
Posted by - 2024.11.24,Sun
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Posted by 中 相作 - 2013.10.11,Fri

 ではここで、乱歩の自伝『探偵小説四十年』から、手製本『奇譚』について記されたところを引いてみましょう。


 乱歩は学生時代、早稲田大学の図書館のほか、上野と日比谷の図書館で洋書を、博文館の大橋佐平がつくった大橋図書館では翻訳書を読みあさりましたが、大橋図書館は探偵小説や冒険小説のたぐいが充実していたといいます。

 そうして読みあさったもののメモを整理して、私は一冊の手製の本を作った。内容は「ミステリ小説覚書」というようなもので、小型の洋罫紙にペンで清書し、章をわけ、カットの絵まで描いて、自分で製本し、表紙の図案も自分で描いた。本の表題は「奇譚」とし、英語でエキストラオーディナリーと説明がついている。頁数は二二八頁、後に大正八年本郷団子坂で三人書房という文芸古本屋を自営したとき、十円(今の四、五千円に当る)の正札をつけて棚に飾っておいたが、誰も買手がなかったという代物。その手製本の目次を記して見ると、
 (1)押川春浪(2)春浪と水蔭及び桜井鴎村(3)スティヴンソン、マークトウェン、ハッガード(4)ガボリオー、涙香、丸亭素人(5)ボアゴベ、コリンズ、コレリ、マーチモント(6)デュマ(7)ユーゴー、ベサント、思軒(8)(9)ポー(10)ホーソン其他(11)(12)ドイル(13)セキストン・ブレイク、フリーマン、春影(14)ルブラン、ルルウ(15)ヴェルヌ(16)ウエルズ(附録)暗号論。
 というようなもので、純探偵作家はごく少ししか読んでいなかったことがわかる。

 なんなんだろうな、と思わないでもありません。

 『奇譚』は「ミステリ小説覚書」みたいなものだった、と書いたそばから、「純探偵作家はごく少ししか読んでいなかったことがわかる」と乱歩は書き添えています。

 『奇譚』は探偵小説の読書メモみたいな内容だったと思い込んでいたんだけど、実際に目次を書き写してみたらそうでもなかった、ということだったのでしょうか。

 たしかに、『奇譚』を「ミステリ小説覚書」と呼ぶことには、かなりの無理があります。

 ならば、『奇譚』にはなにが書いてあるのか、というと、いうまでもなく奇譚のことです。

 子供のころから親しんできた奇譚の数々を体系化し、批評を加えたのが手製本『奇譚』にほかなりません。

 そしたら、奇譚ってなに? という点にかんしては、乱歩が記したところをじかにお読みいただくのがいいでしょう。

 手製本『奇譚』の最初のページ、序文の冒頭を引用してみましょう。

PREFACE.

WHAT HO! WHAT HO! THIS FELLOW DANCING MAD!
HE HATH BEEN BITTEN BY THE TARANTULA.
                QUOTED BY POE
                IN "GOLD BAG"

真個ノ精神的文学(現時ノ。恋心ヲ動カス事ニヨツテ読者ヲ得テ居ル様ナモノヲ云フノデハナイ)ヲ味フニハ多少ノ忍耐ヲ要スル。必ズシモ左様デハナイノダラウガ。僕ガ今日迄ニ読ンダモノハ、飜訳(1)ノ為流暢ヲ失ツタ不快カ、千篇一律ヨリ生ズル疲労カノ伴ハヌモノハナカツタ。之ニ反シテ精神的タルト物質的タルトヲ問ハズ、exaggerative ナル又 plot ノ奇ヲ主眼トスル文学ハ読ムニ苦シカラヌバカリデナク興味ハ巻ヲ置ク能ハザルモノガアル。
斯ル理由ノアル為カ今日迄僕ハ内的文学ノ尊キコトヲ知リナガラモ。多クハ plot ノ奇怪ナル Romance ニ趨ツタ。内的文学(世人ハ以テ真文学ナリトナスモノ)ハ主トシテ精神ノ糧トナリ、plot ヲ主トスルモノハ主トシテ知識ノ糧トナル。
後者ヲ僕ハ仮リニ curious novel ト称スル。

(1)純文学ノ外国人ノ手ニナツタモノハマダ一冊モ読マヌ。語学ノ力ガ足ラヌノガソノ原因ダ。

 冒頭の「黄金虫」の引用は、一行目の「FELLOW」と「DANCING」のあいだの「IS」が抜けていますし、そもそも「GOLD BAG」ではなくて「GOLD BUG」が正しいんですけど、意地が悪いようではありますものの、原文のままといたしました。

 あと、(1)の注釈は、実際には「PREFACE」というタイトルの上、天のマージンに書き込まれています。

 さてそれで、『奇譚』というのは要するに、ごくあたりまえの話ですけど、探偵小説ではなくて奇譚、 curious novel とやらのことを書いた本だったわけです。

 ああ、序文のつづきが読みたい、とおっしゃるあなたのために、いずれ名張市の乱歩蔵びらきの会が『奇譚』一冊を世に問うてくれるはずではありますけれども、とりあえずあしたまた、序文のつづきを活字に起こしてみたいと思います。
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