暑かった。
きょうも暑かった。
そりゃそうじゃろう。
7月じゃもの。
暦の上ではジュライ、とか、なんか語呂わりーけど。
それにしても、NHKの連続テレビ小説を毎朝欠かさず視聴する、というのは、どう考えても、いくら思い返しても、「おはなはん」以来のことじゃね? と思われます。
「おしん」なんて、まったくみでながったもんな。
さて、暦の上ではエイプリルだった有栖川有栖さんの講演会の日、遠来のお客さんからお聞きした「こんどの館長さんは、乱歩のことをちゃんとしてくれるひとなんですか」というひとことがいまも心に、という話のつづきなんですけど、その前にこのエントリのつづきを記したいと思います。
▼2013年7月1日:乱歩と正史の書簡集についていささか最終篇
手紙を全文掲載するなんて、完全な著作権侵害じゃん、もしかしたら、おれって、名張市教育委員会? きゃはは、とか思いつつ無断転載した昭和3年6月3日付の佐藤績宛乱歩書簡、じつはつづきがありました。
つまり、翌4日付の佐藤績宛乱歩書簡もまた、所有者のかたから文面を入出力したブリントを頂戴してあり、例によってそれをすっかり失念していたのですが、失念していたということが判明いたしましたので、おれってほんとに名張市教育委員会だよな、なんかもう、落ちるとこまで落っこっちゃってるよな、くずじゃん、人間のくずじゃん、とか思いながら天下御免の無断転載。
前略
其後原稿を書き続け四十五枚ば
かりになりましたが、大変困つたこと
が起りました。今更らになつて、この
様なこと申上げては大変な手違
ひとなり御迷惑は万々承知ですが、
実は見込違ひにて、五十枚や六十
枚にてはどうしても書上げられず、
百枚近くになりさうなのです。
御予定もあることでせうから、御約束
の倍になつてはのせて頂けまいと存
じます。それに百枚書上げる為に
はどうしても十日頃までかゝりさ
うですから、枚数の点からも締
切の点からも、違約になります。
何とも申訳ありません。
小生の原稿掲載御中止願ふか、十
日まで待つて百枚のせて頂くか、又は
二回に分載して頂くか、この三途
しかありません。どれを採つて下さ
つても文句はありません。一年半
ぶりで気乗りのしてゐるものですか
ら、のせて頂き度いのは山々ですが、
御都合により、次の機会に書かせ
て頂くことゝし、この原稿は他雑誌
に廻しても差支ございません。
何とも恐縮千万、御詫の申様
書簡は和紙にペン書きで四枚、うち三枚を無断転載し、つまり全文は掲載しないことで著作権に多少は留意していることをかろうじて示したうえで、てやんでえこちとら名張市教育委員会じゃねーんだぞべらぼうめ、とか思いつつ、この文面から判断いたしますと、乱歩は五十枚程度という約束で「改造」用の作品を書きはじめ、6月3日付書簡には「只今までに半ば書き上げました」とありますから、その時点で二十五枚ほどが完成していたとおぼしく、それが翌4日付書簡では「四十五枚ばかり」書きあげて「百枚近くになりさうなのです」となって周章狼狽、「御約束の倍になつてはのせて頂けまいと存じます」と殊勝らしく申し出ています。
このあたり、乱歩の「楽屋噺」ではこんなあんばい。
四五十枚という注文だったので、そのつもりでやりかけた所が、百枚書いてもまだおしまいにならない。縮めるなんてことは私には出来ないものだから、佐藤君に相談すると、百枚以内なら何とかするけれど、それを越しては一寸困るという話だ。ところが、私の方では書きついで見ると、二百枚近くにもなり相なので、それでは外へ廻しましょうということにして、そんなものを買ってくれるのは『新青年』の外にはないのだから、横溝君に伝えると、有難いことに、待ってましたというので、素敵に宣伝してくれたものだから、案外好評を博して、単行本にした時も仲々売れた。
6月4日付書簡に記されたのが「佐藤君に相談すると」というその相談内容で、それに対する佐藤の返信に「百枚以内なら何とかするけれど、それを越しては一寸困るという話」が書かれていたと推測されるわけですが、そのあたりのことはいつの日か編まれるであろう乱歩と正史の往復書簡集に収録されるはずの村上裕徳さんの脚注に託したいと思います。
いっぽう、お約束の十倍ほどになってしまった平井通の評伝をそのまま収録していただいた藍峯舎版『屋根裏の散歩者』は、現在ただいまここまで作業が進んでいるとのことです。
▼株式会社藍峯舎:藍峯舎通信 web version(2013年7月8日)
いきなり振っていただいた「今回の執筆に当たってのご苦労など」は、とりあえずあした以降のこととして、ようやくきのうのつづきです。
暦の上ではエイプリルだったある日のこと、つぼ八名張駅西口店で、遠来のお客さんが、
「こんどの館長さんは、乱歩のことをちゃんとしてくれるひとなんですか」
と、つぶやくようにおっしゃった件ですが、この遠来のお客さんはいうまでもなく筋金入りの乱歩ファン、みどもが嘱託を拝命する以前から長きにわたって名張市立図書館にご協力をたまわってきたかたでもありますが、名張市立図書館における乱歩関連資料収集の実態がいったいどんなものなのか、いまではすっかりお見通しでいらっしゃいます。
とくに昨年、名張市立図書館がこのかたにとんでもない不始末をしでかしてしまいまして、それがどんな不始末だったか、ということは武士のなさけで明かしませんけど、ほんとに公務員ってのはひどいもので、乱歩のことがどうこういう以前に、ひととしてどうよ、っつーことがあまりにも多すぎるわけです。
ですからこのかたも、いまでは名張市立図書館に対して、愛想も小想も尽きはてた、みたいな感情を抱いていらっしゃるはずなんですけど、それでもつぼ八名張駅西口店で、談たまたま前館長が定年退職して新しい館長が着任した、という話柄におよんだとき、
「こんどの館長さんは、乱歩のことをちゃんとしてくれるひとなんですか」
とおっしゃったわけです。
私は、ちょっと驚きました。
名張市立図書館が乱歩関連資料の収集にかんして無茶苦茶である、ということはいまやこの遠来のお客さんもよくよくご存じのはずで、館長が代わったところでどうしようもない、ということも理解していらっしゃるであろうと思われる次第なのですが、というか、つぼ八名張駅西口店において私はですね、あそこまで主体性を放棄してしまったらどうしようもない、とか、本は読むものであるということをわかってる人間がひとりもいなかった、とか、名張市立図書館の惨憺たる現状をありのままにおはなししていたんですから、そんな図書館にもはやなにも期待はできない、ということはわかりすぎるほどおわかりのはずなのに、それでもなお、館長が代わった、とお聞きになると、
「こんどの館長さんは、乱歩のことをちゃんとしてくれるひとなんですか」
とお思いになってしまうのは、いったいどうしてなんだろうな、と、私はちょっと驚きつつ、軽く首をば傾げてしまった次第だったのですが、よく考えてみたらなんの不思議もありませんでした。
というのも、乱歩のことをちゃんとする、というのは、難しいことでもなんでもなくて、まともな図書館ならふつうにできることなんですから、これまでの歴代館長は箸にも棒にもかからない役立たずであったとしても、新しい館長さんはふつうのことがふつうにできるひとかもしれない、とお思いになるのも無理はない話だな、と私は納得いたしました。
実際には、いくら館長が代わったって、どうしようもないものはどうしようもない、というしかないんですけど、しかし、新しい館長さんを無視して、いきなり名張市長の判断や責任を問う、っつーのもなんだか考えものかもしんないな、という気も、暦の上ではエイプリルだったあの日以来、してないわけではありません。
ほんと、どうすっぺや。
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