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Posted by 中 相作 - 2013.04.26,Fri

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ZAKZAK
 平成25・2013年4月23日 産経デジタル

美輪明宏に宿る激しい魂 名作「黒蜥蜴」再演
 酒井政利
 Home > 芸能 > 記事

美輪明宏に宿る激しい魂 名作「黒蜥蜴」再演


2013.04.24


連載:時代のサカイ目




5年ぶりに美輪明宏(右)が再演中の「黒蜥蜴」(撮影・御堂義乗)


 暗闇の中で究極の愛が展開される美輪明宏の舞台「黒蜥蜴(くろとかげ)」が再演されている。


 暗黒街の女王の座に君臨する謎に包まれた黒蜥蜴こと上流階級の緑川夫人。宝石商の美しい娘を誘拐し、“秘宝エジプトの星”を手に入れようと策を講じるのだが、宝石商が雇った名探偵・明智小五郎との間に許しがたい愛が芽生え、最後は明智に追いつめられ、死を選ぶ…。


 江戸川乱歩のミステリーな世界を三島由紀夫が戯曲に仕上げ、美輪明宏の舞台によって永遠の名作になったと言われる。


 三島の念願でもあった美輪の「黒蜥蜴」初演は、68年の映画版。翌69年に大阪新歌舞伎座で舞台では初めて演じ、以来、「今回で何度目の再演になるのか、私は数えてみたことはありませんが」と美輪自身が言うように、再演を重ね、その都度、新しい『黒蜥蜴』を繰り広げる。


 それは、故三島夫人が「くれぐれも『何だか古臭いね』と言われないように時代に合わないおかしなところは手直しして気を配って演出してくださいね」と遺した言葉を美輪が心に刻んでいるからに他ならない。


 演出、美術、音楽、衣装も美輪が担当するこの舞台、今回は恐怖美術館の大掛かりだが詳細にこだわった豪華な装置が、舞台に迫力を持たせている。


 もちろん美輪の圧倒的で華麗、気品に満ちた黒蜥蜴は、見終わってすぐに「次回はどんな舞台を見せてくれるのか」と楽しみでさえある。美輪自身も、再演は江戸川乱歩、三島由紀夫、寺山修司ら物故者から託された責務であり、「肉体的条件も含め、可能な限り再演を一生続けていきたい」と言う。


 再演は、誰しもが過去の舞台よりもグレードアップしていなければならないというプレッシャーとの闘いでもある。


 今回、明智小五郎を演じる木村彰吾は、孤高の魂を持つ黒蜥蜴と火花を散らす一瞬を、気品を持ったダンディズムで演じた成長ぶり。


 明智役は黒蜥蜴と同じ空気感や魂を持たなければ成り立たない。美輪という大きな役者と渡り合うには相当な度胸と覚悟、そして演技力がなければ気後れするところを、木村は堂々と演じきった。美輪に触発されたからに他ならない。


 そして美輪が登場しないシーンを引き締めたのが白川和子。重い芝居の中に軽さも見せ、うまさを見せつけた。


 日々デジタル化が加速度的に進化する社会の中で、美輪はデジタルに背を向けるかのように非言語感覚で他を圧倒する。


 ため息、沈黙、恥じらいの目線…まさに文章の行間ともいえる余白の部分に美輪の真骨頂がある。思えば『ヨイトマケの唄』のエンヤコーラも然り。


 それらを全身で演じるというよりも、彼自身に宿っている非言語感覚を、立ち居振る舞いの中で小出しに見せているようだ。


 更には三島や寺山仕込みの慈愛に満ちた、しかしながら激しい魂が美輪には宿っている。カーテンコールの後、客は光の中にいるような錯覚に陥るのはあの慈愛の表情ゆえのこと。


 どんな作品も、他の役者が演じればどうなるのかとふと頭をよぎることがある。しかしながら「黒蜥蜴」だけは、美輪に取って代わる人が決して思い浮かばない。


 ◇


 5月6日まで、東京・ル テアトル銀座 by PARCOで上演中。


 ■酒井政利(さかい・まさとし) 和歌山県生まれ。立教大学卒業後、日本コロムビアを経てCBS・ソニーレコード(現、ソニー・ミュージックエンタテインメント)へ。プロデューサー生活50年で、ジャニーズ系・南沙織・郷ひろみ・山口百恵・キャンディーズ・矢沢永吉ら300人余をプロデュースし、売上累計約3500億円。「愛と死をみつめて」、「魅せられて」で2度の日本レコード大賞を受賞した。2005年度、音楽業界初の文化庁長官表彰受賞。


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