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Posted by 中 相作 - 2013.03.25,Mon

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MSN産経ニュース
 平成25・2013年3月23日 産経新聞社、産経デジタル

作家・三上延さん 苦しい作業で自分保つ
 磨井慎吾
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【転機 話しましょう】


作家・三上延さん 苦しい作業で自分保つ


2013.3.23 07:00 (1/4ページ)



「書き始めたら自宅にこもってしまって、ネットも見ないし、遊びにも行かない」と話す三上延さん=東京都千代田区(桐原正道撮影)


 2月発売の4巻で累計発行部数が470万部を突破し、テレビドラマ化もされた人気ミステリー小説『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズ。古書店を舞台にした同作著者の三上延さん(41)は、作家になる前には古書店でアルバイトとして勤めていました。社員登用も勧められましたが、退路を断って作家の道を選びました。(磨井慎吾)


  小さいころから、本が好きだった。


 「思い出に残っているのは江戸川乱歩。小学4、5年生のころには『少年探偵団』シリーズを全部読んだので大人向け作品も読み始めたが、内容が猟奇的で強烈だった」


 中学に進むと岩波文庫の海外文学なども濫読(らんどく)。高校時代は文芸部に所属し、部誌で小説を書き始めた。小説家を志したのは、そのころだったという。大学でも文芸部に入り、主に海外の幻想文学などに影響を受けた作品を書いていた。


 大学卒業後は周囲に「小説家になる」と宣言し、中古レコード店などでアルバイトをしながら純文学系の作品を書き続けた。だが、新人賞に応募しても次から次に落選。デビューはかなわず、次第に焦りが生じてきた。


 「もう20代後半。ちゃんと仕事をしなければならないと思った」。いったんは小説を書くことを諦め、古書店にアルバイトとして勤め始めた。長く勤めるうちにさまざまな仕事を任され、社員登用の誘いも受けた。これが、運命の分かれ目だった。


 「このまま古書店員になったら、それで人生が決まってしまうな、と迷いが生じて。いろいろ考えた末に、もう1年だけ小説を書いてみることにした」


 約3年勤めた古書店を辞め、作家一本でやっていく決意を固めた。同時に、小説のスタイルも変わった。


作家・三上延さん 苦しい作業で自分保つ


2013.3.23 07:00 (2/4ページ)


「書き始めたら自宅にこもってしまって、ネットも見ないし、遊びにも行かない」と話す三上延さん=東京都千代田区(桐原正道撮影)


 「今までの自分の作品を振り返ると、客観的に見てデビューできる水準には達していなかった。これでいいのかと自問したとき、ジャンルは重要でなく、本当にやりたかったのは誰かに自分の作品を読んでもらうことだとの考えに至った」


 路線をエンターテインメントに移し、若い世代に人気のライトノベルレーベル「電撃文庫」の新人賞に応募した。受賞は逃したが、編集部に実力を認められ、平成14年に応募作『ダーク・バイオレッツ』が同文庫から刊行、念願の小説家デビューを果たした。30歳のときだった。


 ライトノベルの書き手は「一定の水準のものを、速いペースで書き続けることが重要。職人であることが求められる。そうしないと生き残れない」という。年に3~4冊のペースで、ホラー系を中心とした作品を出し続けた。ライトノベル作家としては珍しく固定ファンを確保し、業界内では「すごく売れるというわけではないが、地味で堅実なポジション」の作家だとみなされていた。


 第2の転機は、『ビブリア-』を刊行した23年。昔から温め続けていた、古書店勤務の経験を生かした小説というアイデアを、アスキー・メディアワークスの大人向け文庫レーベル「メディアワークス文庫」で形にした。『ビブリア-』はじわじわと売り上げを伸ばし、同文庫で初のミリオンセラーを達成した爆発的ヒット作となった。


 予想を超えた大ヒットは大きな喜びだが、同時に巨大な期待の重圧を抱えることにもつながる。


 「正直、悩んだ時期はあった。読者が突然何十倍に増えるというのは経験のない事態だったので、どういうふうに執筆に向き合えばいいのか、分かりかねた」


 大ヒット作を生んだ作家が、執筆の動機づけを喪失したり、プレッシャーにつぶされたりして、続編が書けなくなってしまうことはしばしばある。どうやって、その危機を乗り切っているのか。


作家・三上延さん 苦しい作業で自分保つ


2013.3.23 07:00 (3/4ページ)


「書き始めたら自宅にこもってしまって、ネットも見ないし、遊びにも行かない」と話す三上延さん=東京都千代田区(桐原正道撮影)


 「ある時期から、ある程度の割り切りがついた。全然違う状況に置かれるようになったが、小説を書く作業自体は、面倒くさい部分も含めて昔から変わらない。それに耐えていられるうちは大丈夫だと」


 経済的に十分な余裕ができた今も、執筆環境はあえて昔と同じに保っているという。本を書くたびに呻吟(しんぎん)するのも、昔と同じだ。


 「もうダメかもしれないとは毎回思う。でも、これまでも苦しい時期はずいぶんあり、何とか乗り切ってきた。苦しいときは、その経験を総動員する。これまで何とかなってきたのだから、何とかなるだろう、と」。古書店での経験も含め、20代の苦しかった記憶も、いまや糧となっている。



〈みかみ・えん〉昭和46年、横浜市生まれ。武蔵大人文学部社会学科卒業。中古レコード店、古書店勤務などを経て、平成14年『ダーク・バイオレッツ』(電撃文庫)で作家デビュー。同文庫から『天空のアルカミレス』シリーズ、『偽りのドラグーン』シリーズなど著書多数。23年に『ビブリア古書堂の事件手帖』を刊行。同作は「2012年本屋大賞」にノミネートされた。


 --執筆スタイルは


 「午前中にファミレスに行ってある程度書き、自宅に戻ってその続きをやるというスタイルですね。1冊の本を書くとき、前半は時間をかけて後半でペースが上がるというケースが多いですね。特に『ビブリア-』は調べ物が多く、楽しいのですが時間がかかってしまいます。新刊の4巻は江戸川乱歩の話で、いくらでも調べていたかったのですが、締め切りがありますので…(笑)」


作家・三上延さん 苦しい作業で自分保つ


2013.3.23 07:00 (4/4ページ)


「書き始めたら自宅にこもってしまって、ネットも見ないし、遊びにも行かない」と話す三上延さん=東京都千代田区(桐原正道撮影)


 --テレビドラマ版についての感想を


 「原作と違う部分ももちろんあるのですが、古書を題材としたメーンのストーリーはきちんと原作を大事にする形で再編されていると思います」


 --『ビブリア-』シリーズの今後は


 「話の流れはある程度できていて、あと10冊も20冊も続くということはありません。どんなに書いても、あと2冊から4冊の間というところでしょう。『ビブリア-』以外にも、ミステリーや恋愛ものなど、書きたいテーマはありますね」


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