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平成25・2013年3月8日 読売新聞社
「ビブリア古書堂」が大ヒット、三上延さん
多葉田聡
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「ビブリア古書堂」が大ヒット、三上延さん
「乱歩」テーマに4巻目
「父が『28歳までは好きなことをしていい』と言ってくれた。今考えると、本当におおらかな親でした」=片岡航希撮影
古書を題材にしたミステリー『ビブリア古書堂の事件手帖てちょう』シリーズ(メディアワークス文庫)が、3巻で390万部の大ヒットとなった作家、三上延さん(41)。
これまでは短編集だったが、2月刊行の最新巻『栞子しおりこさんと二つの顔』は、ミステリー界の巨人、江戸川乱歩をテーマにした初の長編だ。
鎌倉の古書店を舞台に、美人店主、栞子とアルバイトの大輔が古書にまつわる謎を解く物語。2011年の刊行後すぐシリーズ化され、今年、連続ドラマにもなった。4巻目も初版80万部と好調だが、本人は「ありがたいが、プレッシャーも大きい」と謙虚に語る。
その重圧は、乱歩を新作の題材に選んだことで倍加された。
「独特の世界観や想像力、語り口のうまさは今も色あせない。下手なものを書くと、いろんな方を敵に回してしまう」
乱歩の古書を譲る代わりに、古い金庫を開けてほしいという依頼が物語の発端。そのカギは、デビュー作『二銭銅貨』や『少年探偵団』シリーズ、『押絵おしえと旅する男』など様々な乱歩作品を取り巻く人々の数奇な人生にあり、失踪していた栞子の母も姿を現す――。
「乱歩は小学生の頃から一通り読んでいたが、調べると知らないことばかりで、どの本を取り上げるか迷った。ラストの最大の謎も、本当は違うものを想定していたが、結局、別の形に変えました」
子供の頃から本好きで、高校、大学と文芸部に所属。10代半ばから作家を志したが、道のりは険しかった。ガルシア・マルケスらの南米文学、仏のボリス・ヴィアン、村上春樹、村上龍の「ダブル村上」など「面白そうなものを手当たり次第に」読み、文学賞に数回応募したが落選。大学を出て中古レコード店で働いた後、長編を書いたが、これも1次審査で落ちた。
その後、古書店で3年間アルバイトし、社員にならないかと誘われた時、「もう1回だけ書いてみよう」と思った。そこで目に留まったのが、古本で人気だった中高生向けのライトノベルだった。
「自分で売り買いして勢いを感じていた。スティーブン・キングのホラーなども読んでいたので、全く同じことはできないが、自分にもできる余地があると思った」
2002年、『ダーク・バイオレッツ』で電撃小説大賞の3次選考を通過。同作でデビューし、ホラーやファンタジーで実績を重ねたところへ、20代男性を対象にした書き下ろしの依頼を受けた。
アルバイト経験を基に「いつか書こうと思っていた」古書に関する企画を別の企画と共に提案すると、「通ると思っていなかった」古書の方が採用された。名探偵ホームズと助手ワトソンを連想させる登場人物、淡い恋愛模様、湘南のよく知られた舞台……。古書の知識を盛り込むだけでなく、なじみのない人にも分かりやすい設定を工夫した結果、読者層が広がり、今や女性が8割を占める。
「ブックオフのような新古書店にしか行かない人も、漠然と専門的な古書店のイメージを持っていると思う。古本にはモノとしての魅力があり、帯や装丁を見れば、出版当時どう世の中に受け入れられたかも分かる。そういう好奇心が喚起されたのでは」
今作の後書きに「物語もそろそろ後半」と書いた。古書のネタ探しが大変で、「長くは続けられない」と感じているという。「今考えている話を収めると、あと2~3巻か、もう少し伸びるかも」
その後は?
「企画をいくつか考えていますが、どれが形になるか分からない。でも、読者に楽しんでもらいたいという気持ちが僕の原動力。自分以外が全く興味を持てない話は、やらないと思います」
エンターテインメント作家としての自負をのぞかせた。(多葉田聡)
みかみ・えん 1971年、横浜市生まれ。『ビブリア古書堂』の舞台である神奈川県鎌倉市の高校に通い、大学卒業後、同県藤沢市の中古レコード店や古書店でアルバイト。『ダーク・バイオレッツ』や『シャドウテイカー』『偽りのドラグーン』など「電撃文庫」で多くのシリーズを手がける。
(2013年3月8日 読売新聞)
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