ウェブニュース
YOMIURI ONLINE
平成25・2013年2月22日 読売新聞社
「吉川英治」 群雄割拠の刊行
佐藤憲一
Home > 本よみうり堂 > ニュース > 記事
…………………………………………………………………………………
著作権切れ 電子書籍も
新潮文庫は、歴史ゲームでおなじみの長野剛さんの絵を使う
昭和の大衆小説を代表する作家、吉川英治(1892~1962)の代表作『三国志』や『宮本武蔵』の刊行が相次いでいる。没後50年が経過して著作権保護期間が終わり、今年から出版が自由になったためだ。
「三国志も宮本武蔵も、吉川さんの本で日本人のイメージが形作られてきた。文学界にそびえ立つ巨星の代表作はぜひ収録したかった」。新潮文庫編集部の私市憲敬きさいちのりたか部長は言う。
『三国志』全10巻、『宮本武蔵』全8巻を9月まで順次刊行。パソコンのゲームから歴史に興味を示す若い読者に関心を持ってもらおうと、表紙には「信長の野望」のゲームイラストで知られる長野剛さんの絵を使用。通常の単行本より大きな10ポ活字を使い、読み物的な解説や地図、注釈にも力を入れた。宝島社文庫も3月から時代背景説明もつけた『新装版 宮本武蔵』の刊行を始める。
吉川の代表作は、講談社の「吉川英治歴史時代文庫」(85冊)に遺族の意向で集められ、同社以外ではほぼ読めない状態だった。前身の「吉川英治文庫」(161冊)を合わせ3880万部を誇る人気の作品群が著作権フリーとなったが、同社は、「他の代表作を読みたくなった読者の要望にもこたえられるし、落ち着いた装丁の本を所有する喜びも大きいはず」(担当編集者)と余裕を見せる。
さらに波乱の目となっているのが、安価な電子書籍の登場。既に、出版社のゴマブックスが今年に入り、『三国志』の配信を始めた。現在100~150円。著作権の切れた本を無料公開している青空文庫でも、『私本太平記』に続き『宮本武蔵』の公開を始めた。
三国志さながらの“群雄割拠”状態だが、新潮文庫では今回の両作の刊行を、電子書籍との競合時代に著作権フリー作品の可能性を探るテストケースと位置付ける。15年に江戸川乱歩と谷崎潤一郎、17年に山本周五郎が没後50年と昭和の大物作家の著作権が切れる時期を控えているからだ。私市部長は、「装丁や解説の工夫で紙の文庫は、電子書籍に十分対抗してゆけると信じている」と話している。
(文化部 佐藤憲一)
(2013年2月22日 読売新聞)
Powered by "Samurai Factory"