書籍
一九三四年冬-乱歩
久世光彦
平成25・2013年1月25日初版 東京創元社 創元推理文庫
A6判 カバー 336ページ 本体800円
一九三四年冬-乱歩
p7-322
細目
序章 張ホテル
第一章 梔子姫
第二章 ミセス・リー
第三章 偏奇館主人
第四章 啞者の声
第五章 ポインセチアの秘密
第六章 神々の蝶
乱歩──みごとな模倣、みごとな論考
戸川安宣
p323-333
久世さんの思い出
翁華栄
p334-336
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一九三四年冬-乱歩
序章 張ホテル
微かに身じろぎすると、洋風のバスタブいっぱいに張ったお湯の表に、赤や黄の小波が立つ。西に面した浴室の高窓にはめこまれたステンド・グラスの模様が映っているのである。長々と体を伸ばしたまま、あの模様は何だろうと考える。ホテルのこの部屋に入った今朝は馴鹿かと思ったが、陽が差し込んだいまは翼をひろげた鴉に見える。光の具合でいろんなものに見える騙し絵のようなステンド・グラスなのだろうか。それほど凝った造りとは思えない安ホテルである。浴槽の琺瑯だってところどころ剥げかけているし、床のタイルも黒ずんだり黄ばんだりしている。しかし、こうやって好きなときに入浴できるホテルはやっぱりいい、と風呂好きの乱歩は顎までお湯に浸かって満足だった。
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乱歩──みごとな模倣、みごとな論考
戸川安宣
北村薫さんの『秋の花』の文庫版が刊行されたのは一九九七年の二月である。ということは、ぼくが久世光彦さんにお目にかかったのはその前年、一九九六年の年末ではなかったろうか。
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▼東京創元社:一九三四年冬─乱歩
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