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平成25・2013年2月7日 読売新聞社
名探偵が多すぎる?
吉弘幸介
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金田一少年と並ぶ少年探偵といえば、やはり江戸川コナン。青山剛昌さんの『名探偵コナン』(小学館)の主人公である。
帝丹小学校の1年生ながら難事件を名推理で解決していく。だが、彼の本当の姿は工藤新一という高校2年生。謎の犯罪集団「黒の組織」に毒薬を飲まされ、命は取り留めたが、幼い子どもの姿になってしまう。「見た目は子ども、頭脳はおとな」の探偵はこうして生まれた。では、この変名はどのようにして誕生したのか。
自分の身に起きた異変に気づいた新一は隣家の阿笠博士のもとに駆け込む。そこに現れたのが、デート中に姿を消した彼を捜しに来たガールフレンドの毛利蘭。名前を聞かれて慌てふためく新一、とっさに本棚の江戸川乱歩とコナン・ドイルの名を合体させて答える。
コナンだけでなく、このマンガには探偵やミステリー作家に由来した名の人物がほかにも登場する。もともとの江戸川乱歩自体が、いわずと知れた、ミステリーというジャンルの創始者の一人でもあるアメリカの作家、エドガー・アラン・ポーのもじりである。そして、乱歩が『D坂の殺人事件』(東京創元社)で初めて登場させた明智小五郎は、日本では最も有名な名探偵となった。
コナンに登場する名探偵ならぬ迷探偵・毛利「小五郎」の名は当然、それに由来するだろう。大阪の高校生探偵、服部平次は、野村胡堂の手になる「銭形平次」から。毛利の刑事時代の上司であった目暮十三警部は、フランスの作家ジョルジュ・シムノンが作り出した「ジュール・メグレ」警視。阿笠博士は、イギリスのミステリーの女王、アガサ・クリスティにちなむ。そして何よりも、工藤新一は、あの松田優作の主演で人気となったテレビドラマ『探偵物語』の主人公「工藤俊一」からとられているということだ。
ここまで来て思い出すのが、西村京太郎さんの『名探偵なんか怖くない』(講談社文庫)だろうか。クイーンにメグレ、ポワロに明智といった錚々そうそうたる東西の名探偵が登場し、「3億円事件」を模した謎に挑むというミステリーだ。作者のミステリーに対する愛情が生んだ一冊ということができようか。そこから思えば、『名探偵コナン』も同様だろう。
ところで、コナン・ドイルである。あまりにも有名なシャーロック・ホームズの生みの親だが、老生のお薦めは、ミステリーではなく、この作家によるチャレンジャー教授シリーズだ。
『失われた世界』(東京創元社)は、絶滅したはずの恐竜を求めてアマゾン奥地を探検する教授らの冒険を描いたもの。原題は「ロスト・ワールド」という。このタイトル、何とも魅力的なのだろう。手塚治虫さんにも同名の作品があるし、あの「ジュラシック・パーク」のマイケル・クライトンもこのタイトルを冠した作品を発表している。
チャレンジャーものは、ほかに『毒ガス帯』『霧の国』の2作があるが、後者はドイルが晩年傾倒した心霊現象を扱ったもので、これもまた興味深い作品である。だが、両作品ともに新刊で入手できないのは、何とも残念。
プロフィル
吉弘幸介:読売新聞東京本社記者。文化部で10年余マンガなどを担当した。
(2013年2月7日 読売新聞)
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