こんなコメントを頂戴しました。
▼2013年2月7日:気が早いけど来年の話です > 無題
コメント欄でお答えしようかと思ったのですが、このエントリにいささかを記すことにしました。
本題に入る前に、倉敷市版横溝正史イベントのニュースがありましたので。
▼山陽新聞ニュース:金田一は「和魂洋才の名探偵」 倉敷で有栖川有栖さんら講演(2013年1月26日)
ではでは、正史はいいけど乱歩はどうよ、とさっそくまいります。
頂戴したコメントから順次、引用してゆくことにして。
1994年・乱歩生誕100年の名張の実績
①ミステリートーク「江戸川乱歩の人物像」→山村正夫氏の講演
ありましたありました。
こんな講演会、たしかにありました。
私は当時、名張市立図書館で乱歩作品の読書会の講師を務めておりましたので、その延長みたいなかたちで、この山村正夫さんの講演があった日の午前中、「江戸川乱歩は三度死ぬ」とかふざけた演題の講演をおこなったことをおぼえております。
午後の山村さんの講演、ぜひとも拝聴しなくっちゃな、とは思いつつ、うちでお昼ごはん食べたあと、ついついテレビで巨人対西武の日本シリーズを観戦しつづけてしまったことも思い出しました。
山村さんの講演会は、名張市が日本推理作家協会の協力を得て毎年開催していたミステリ講演会の1994年度版で、たしか通算四回目であったか、と思いながら名張市の公式サイトを確認してみたら、驚くべし。
▼名張市:なぞがたりなばり
「なぞがたりなばりについて」のページには「平成21年度より「なぞがたりなばり」は市民活動団体等へ委託し事業を実施します」とあるだけで、これではいまだに事業が継続されてるみたいですし、第十三回から第二十回までの紹介ページのうち、以前にも指摘したことですが、なぜか芦辺拓さんによる第十八回だけが抜けている、という不備もそのままになってます。
芦辺さんといえば、芦辺さんのパスティーシュがテレビドラマ化されるそうです。
▼スポーツ報知:山Pが金田一耕助!伊藤英明の明智小五郎と推理対決(2013年2月8日)
正史ファンも乱歩ファンも、ともに必見、というべきでしょう。
そんなことはともかく、名張市のミステリ講演会は日本推理作家協会に丸投げしていたイベントで、二十周年を機にあっさり打ち止めとなってしまいました。
あの講演会は、当時の市長さんの方針の一環で、つまり、当時の名張市はいまだ右肩あがりの自治体で、その前の市長さんの時代には、市役所が新しくなり、当時の市長さんの時代には、病院を建て、大学を誘致し、となかなか勢いがよかったわけです。
その勢いに乗って、なんか一流ブランドでかっこつけたいよなあ、ということになって、名張市になにがあるかというと、乱歩と観阿弥でした。
観阿弥のことはさておき、乱歩のことでいいますと、一流どころつかってなんかできねーかよ、ってんで、日本推理作家協会に話をもってゆき、みごと丸投げ講演会が実現したんですけど、この講演会、じつは乱歩ファンの琴線にふれるものではなかったかもしれません。
つまり、その年の入場者は、その年の講師先生のファンが多くを占めていて、そうしたひとたちは、次の年にはもう名張市へは足を運んでくれないからです。
講師がどなたであれ、乱歩のことをテーマにした講演がおこなわれていたのであれば、乱歩ファンが必ず足を運んでくれる催しになったかもしれませんが、ちゃんと乱歩のことを話してくださったのは、私の知るかぎりでは芦辺拓さんただおひとりでした。
山村正夫さんの講演は「江戸川乱歩の人物像」だったとのことですから、山村さんもずっと乱歩のことをおはなしになったのかな、と判断されますが、私は日本シリーズみてましたからよくわかりません。
それでまあ、日本推理作家協会から、もうおしまい、と通告された時点で、乱歩をテーマにした講演会に切り替えて講演会をつづける、という手もあったのですが、名張市はそうしませんでした。
ミステリ講演会を見直し、本来の趣旨に沿った事業に軌道修正するチャンスだったはずなんですけど、名張市役所のみなさんには、残念ながらそんな芸当はできなかったのだろうと思われます。
ですからまあ、二十年も講演会をやってきたというのに、それでなにかがどうなった、ということもなく、しかも、講演会がおしまいになったということを正式に公表しないままこんにちにいたってるわけですから、ま、どうしようもありません。
②乱歩賞作家・石井敏弘氏の書き下ろし小説『北斗七星の迷宮』を出題とするミステリーウォーク。参加者約800人で、犯人と殺人動機の正解者には、漏れなく名探偵認定証をくれました。また、正解者のなかから抽選で、名張のお土産セットが贈られ、日本最北(と言っても福島ですが)から参加した私もいただきました。小説の解答編を演劇で上演したのも画期的でした。
これもまた、丸投げ、というか、丸買いのイベントでした。
石井敏弘さんは当時、どっかの企画会社かなんかと組んでのことだったのか、ご当地ミステリを書き下ろして、それを材料にしたイベントを売る、というビジネスを手がけていらっしゃいましたので、名張市はそれを買っただけの話にすぎません。
よその土地でも、石井さんの書き下ろし作品によるおんなじようなイベントが開催されているのを、雑誌の広告かなんかでみかけたこともありました。
③白石加代子氏の「百物語」シリーズの一環として、「押絵と旅する男」「人間椅子」が上演されました。
これも丸投げならぬ丸買いで、もちこんだのは旧上野市の某つけもの屋の老舗の若旦那、いまは社長さんで、たしか「百物語」を手がけていた制作会社のかたとおともだちだった縁で、この名張公演が実現にいたったのではなかったかと記憶いたします。
この社長さん、この手のことがお好きなのか、現在は伊賀市でフィルムコミッションを主宰して、綾辻行人さん原作の「アナザー」とか、現在撮影中だかクランクアップしたんだか、「蠢動」という時代劇なんかにもかかわっていらっしゃるはずです。
④名張市立図書館の「大乱歩展」が開催されました。→『貼雑年譜』の実物を初めて、観ました。 中さん演出の『盲獣』の演劇は、観れな勝ったのは、残念でしたが。
私はこの「大乱歩展」、足を運んだ記憶がありません。
たぶん行かなかったはずです。
『貼雑年譜』が展示されている、ということを知っていたのかどうか、よくおぼえておりませんし、展示されていたとしても、行く気になったかどうか。
当時の私は、乱歩にあまり興味がなかったのかもしれません。
この展示会は、ほかのイベントとちがって名張市立図書館オリジナルの企画で、平井隆太郎先生のもとにも『貼雑年譜』の貸与のことなんかでお願いにあがったはずですけど、私には舞台裏のことはまったくわかりません。
それから、「盲獣」はお芝居ではなくて、「江戸川乱歩は三度死ぬ」と題した講演で披露したものです。
つまり、講演なんて疲れるから、できるだけしゃべらないようにしようと考え、地元で劇団やってた女の子数人に声をかけて、乱歩作品の朗読を盛り込んでもらったわけなんですけど、そのうちの一篇が「盲獣」だったという寸法です。
たぶん、乱歩が後年、このエログロはなんなんだ、と削除してしまったところを、削除なしで流通している春陽文庫版で読んでもらったのではなかったでしょうか。
なんと悪趣味な。
それでまあ、結局、この程度だったわけです。
いやいや、名張市の乱歩生誕百年記念イベントに携わってくれたみなさんの労を多とするにやぶさかではありませんが、だれかがどっかでなにかをしっかり考えたのかよ、ということになると、ただのありものの寄せ集め、例によって例のごとく、乱歩のことをろくに知らず、乱歩作品なんかまともに読んだことがなく、ただのうすっぺらい思いつきで、恥ずかしくなるほどのご町内感覚で……
いやいやいやいや、まあいいですけど、それでこのイベントが催された年の翌年、私は激怒することになるわけです。
名張市立図書館を叱り飛ばすことになったわけです。
前にも記しましたけど、二年で終わる約束だった読書会の講師が三年目以降も継続ということになっていましたので、私は思わずかっと来て、こんなの知らねーぞ、と話を蹴り、だいたいがおまえら市民を都合よくつかおうとしてんじゃねーよ、市民は行政の手駒じゃねーんだぞこら、と口角泡を飛ばし、そもそも図書館として当然しなきゃならんことをなにもせず、なんで読書会みたいなことでお茶ばっか濁してんだよこのすっとこどっこいが、とそれはもう怒った怒った。
それでけりをつけたつもりでいたら、乱歩にかんしてなにをすればまったくわかりません、なんとかしてくれませんか、と図書館側から申し出がありましたので、なんでも好きなことをすればいいんだけど、とりあえず目録のひとつもつくんないとまずいぞおい、とアドバイスして、以下、ご存じのとおりのゆくたてとなりました。
それでまあ、前の市長さんが乱歩という一流ブランドを利用して自治体のグレードアップを図ろうとした戦略は、いったいどうなったのか。
結局、どうにもならなかった、というべきでしょう。
ミステリ講演会以外にも、乱歩にちなんだ文学賞、とか、一本ネタの乱歩記念館、とか、いくつかプランはあったみたいですが、みんなぽしゃってしまいました。
失敗とさえ呼べません。
ただの戦略倒れ。
ただまあ、どんな稚拙なものであれ、戦略があったことはあったわけです。
すごいなおい。
いまやもう、戦略なんてどこにもないぞ。
ビジョンもなく、プランもなく、アイデアもなく、タクティクスもない。
そんな名張市ですから、乱歩生誕百二十年はどうよ、ということになると、たぶんなんにもないのではないでしょうか。
He is not what he was.
まさしくそのとおりです。
なにがちがうのかというと、二十年前にくらべると、日本全国津々浦々、ほとんどの自治体がそうだと思いますけど、財政的な余裕がまったくなくなってるわけです、
二十年前なら余裕で捻出できた予算が、いまは逆さにしてふりまわしても出てきません。
ですから名張市にも、乱歩生誕百二十年記念事業を手がける余裕はないのではないか。
ま、余裕があったって、どうせばかみたいな事業しかできなくて、私からいいだけおちょくられるのが関の山ですし、逆に余裕がなくたって、知恵さえあればそれなりのことはできるはずなんですけど、なにしろここ名張市、なにかをしっかり考える、ということをしない土地柄です。
ほんと、この二十年ほどのあいだ、ちゃんと考えて、ちゃんと決めて、ちゃんとやった、というのは、名張市立図書館の目録発行くらいなものであって、あとの乱歩関連事業なんてひとえに風の前のちりにおなじ、例によって例のごとく、乱歩のことをろくに知らず、乱歩作品なんかまともに読んだことがなく……
さ、くどくどいってないで、お酒にしよっと。
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