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平成25・2013年2月2日 メディアジーン
豆まきの夜にふさわしい、鬼にまつわる傑作ミステリ3選
六島京
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2013.02.02
明日、2月3日の節分はご存知の通り、立春の前日。暦の上ではもうすぐ春ですが、まだまだ寒さは続いてますね。節分と言えば「鬼」ですが、今回は題名に鬼が使われている傑作ミステリをご紹介します。
『鬼火』(横溝正史)
まずは横溝正史の『鬼火』(出版芸術社)。
名探偵・金田一耕助の生みの親として有名な横溝正史ですが、彼の名作は金田一耕助シリーズに限りません。戦前、横溝は結核を患い信州で療養中に耽美で幻想的な物語を何作か執筆しています。『鬼火』はその中の一作で、彼の違う一面を垣間見ることができます。
物語は「私」が荒れ果てたアトリエを発見することから始まります。そこには、かつての主に置き去りにされた1枚のカンバス。不気味な裸形の女が描かれていました。「私」は事情を知る俳諧師の竹雨宗匠の庵を訪れ、ある男たちの物語を聞き出します。彼らの名は万造と代助。従兄弟同士なのに憎み合う2人は共に上京して美術学校に進み、モデルの女性お銀を巡って骨肉の争いを繰り広げます。想像を絶する足の引っ張り合いはやがて悲劇へと発展し――。
この作品の鬼気迫る描写は、結核で死に瀕した横溝だからこそできたものかも知れません。気になる物語のクライマックスは、是非ともご自分の目でお確かめください。
『孤島の鬼』(江戸川乱歩)
続いては江戸川乱歩。名探偵明智小五郎と怪人二十面相の生みの親です。
今回ご紹介する作品は『孤島の鬼』(東京創元社)。残念ながら明智小五郎の登場はありませんが最高傑作と評される長編です。乱歩の得意とする、怪奇・幻想・グロテスク・耽美などがこれでもかと詰め込まれた作品です。
主人公の蓑浦金之助は同僚の木崎初代と激しい恋に落ち、結婚を約束します。初代は捨て子で見元は分からないのですが、破れた系譜図を持たされていました。そんなある日、彼女は殺害され、系譜図も奪われてしまいます。復讐を誓って真相を追う蓑浦は恐ろしい出来事に巻き込まれ、その出来事がきっかけで蓑浦青年は一夜にして白髪になってしまいます。彼をそこまで追い詰めたものの正体は――?
"孤島の鬼"の真相を確かめるべく、是非ともご一読ください。
『安達ケ原の鬼密室』(歌野晶午)
最後は、歌野晶午氏の『安達ヶ原の鬼密室』(講談社)です。
1988年に『長い家の殺人』でデビューした歌野氏は、以来『白い家の殺人』『動く家の殺人』(すべて講談社)など、主に本格推理小説を発表し続けています。『安達ヶ原の鬼密室』もその1つで、いきなり面くらってしまうような物語の幕開けが印象的な作品。
戦時下、疎開先から出奔した梶原少年は、行き倒れになったところをある老婆に助けられ、異国情緒漂う屋敷に運び込まれます。その夜、鬼の姿を目撃した少年は老婆にその話をするのですが信じてもらえません。そんな中、陸軍兵士数名が宿を求めて屋敷を訪れます。老婆はしぶしぶ兵士たちを泊めるのですが、翌日から兵士たちの遺体が次々と発見され、ついには老婆も亡くなります。唯一の生存者である少年は記憶喪失になってしまい、事件は未解決のまま迷宮入りに。その後、50年の歳月を経て、探偵・八神一彦が真相究明に乗り出します――。
構成が面白く、内容を書き過ぎるとネタバレの恐れがあるので、多くを語れないのが辛いところ。ネタバレはミステリファンにはマナー違反ですので、面白い小説を紹介する時は一番神経を使います......。
節分の豆まきがひと段落したら、謎解きミステリの世界にどっぷり浸かってみてくださいね。
(文/六島京)
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