〔＊17〕乱歩が行く、警戒しろ…

横溝正史江戸川乱歩関連年譜

 

〔＊17〕

 

乱歩が行く、警戒しろ…

 

横溝正史、千代有三、中島河太郎　　

山村正夫、大坪直行（司会）　　

 

横溝　シムノンが来たら泊めるって言って……。

　ああいうところは正直で子供みたいな人だったね。まあしかし、戦前の乱歩と戦後の乱歩はすっかり、違うてた。

　二十二年に岡山で戦後初めて会ったとき、びっくりした。あのときには水谷準君と海野十三さんから手紙が来て、“乱歩が行くそうだが警戒しろよ”（笑）。戦前の乱歩とぜんぜん違うからって。それで来てみたら、ビックリしちゃったな。トヨタのジープで西田政治さんと来たんだが、西田政治なんかぜんぜん秘書だよ。「オイ君、それ持ってこい、これ持ってこい」って。目がとがってるわな。つまり終戦後の岡田ってところには公民館があって、岡山の浮浪者もってきたの、その連中の目と同じだった。テレビでよく終戦後の映画やるでしょ。どんな名優でもあの目玉だけはやれんなあと思って。その目玉をもって乱歩がやって来た（笑）。それは仮想敵国は大下宇陀児だよ。ぼくを抱き込みに来たんだよ、乱歩が。宇陀児は全盛でしょ、あの時分。それで二晩泊まったかな。だから海野さんと水谷に手紙書いたよ。なるほど来たときは恐れをなしたが、二晩泊まって歌仙一巻まいた時分には、帰るときにはふだんの乱歩さんでした、と書いておいた。二晩泊まってるうちに目玉のこんなのが直って帰ったよ。どうです、ぼくの功徳は（笑）。

 

「いんなあとりっぷ」昭和55年3月号