本日も『赤き死の假面』の話題を少しだけ。奥付の写真をどうぞ。
印刷は株式会社精興社。あの精興社です。あの精興社、といってもご存じない方はご存じないでしょうけど、独自の活字で知られたかつての活版印刷の雄。活字が姿を消して印刷のデジタル化が進んだいまでも印刷や出版に関係する業界の人なら社名を聞いただけで、お、あの精興社か、ということになるはずです。げんに私も解説のテキストデータを印刷会社にメールで送信するよう版元から指示を受け、送信先のアドレスに「seikosha」という文字を見つけたときには、お、もしかしたらあの精興社か、とすぐにぴんと来た次第でした。『赤き死の假面』は造本のみならず、書体、組版、印刷といった面の美しさも特筆ものだと思われます。
とはいうものの、まだ、いまだ、いまだに恐ろしいような気がしてならず、新年も三日目だというのに解説に眼を通すことはできておりません。書き出しは以前にもちらっとご覧いただきましたとおりこんな感じなんですけど。
ポーと乱歩 奇譚の水脈
エドガー・アラン・ポーは一八〇九年、和暦でいえば文化六年、大西洋に開かれたアメリカの港湾都市で生まれた。八十五年後の明治二十七年、紀伊半島の小さな盆地に誕生した江戸川乱歩は、成長してポーを発見し、心酔のあかしにその名を継承した。ポーを始祖と仰ぐ探偵作家として、ポーが「ベレニス」に垣間見せた夜の夢のリアルを求めながら、しかし乱歩は危うく踏み迷う。ポーの明晰と冷徹から遠ざかり、探偵小説は二重身のような奇怪な相貌を帯びて乱歩の前に立ち現れる。
解説のことを綴るとなるとたらたらしたいいわけを死ぬほど並べ立ててしまいそうで、それもなんだか恐ろしい。
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