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Posted by 中 相作 - 2012.12.12,Wed

ウェブニュース

 

毎日jp

 平成24・2012年12月9日 毎日新聞社

 

今週の本棚・この3冊:変な乗客=有栖川有栖・選

 有栖川有栖

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今週の本棚・この3冊:変な乗客=有栖川有栖・選

 

毎日新聞 2012年12月09日 東京朝刊

 

 <1>押絵と旅する男(江戸川乱歩著/『江戸川乱歩全集第5巻 押絵と旅する男』所収/光文社文庫/980円)

 

 <2>話上手(サキ著/中村能三訳/『サキ短編集』所収/新潮文庫/420円)

 

 <3>蜜柑(芥川龍之介著/『舞踏会・蜜柑』所収/角川文庫/500円)

 

 鉄道で旅をするのが大好きなせいもあり、乗り合わせた列車の乗客から常ならぬ話を聞かされるとか、変な乗客を見かけるという小説が好きです。

 

 そんな小説を三つ選んでみました。いずれも短い作品で、「この三冊」ではなく「この三編」になってしまうのですが。

 

 まずは江戸川の名編「押絵と旅する男」です。魚津で蜃気楼(しんきろう)を見た帰りの列車で、「私」は奇妙な光景を目撃します。ある男が一枚の押絵を窓に向けているのです。そこに描かれた美しい男女に車窓風景を見せてやるかのように。男は、「私」の疑問に答えるために語りだします。信じられないほど夢幻的な、ある愛の物語を。

 

 二つめは、その乱歩が<奇妙な味>と呼ぶ不思議な作風のイギリス人作家、サキの「話上手」。長旅に倦(う)んで騒ぐ子供たちを静かにさせるため、たまたま向かいの席に座った男がお話を聞かせます。この掌編を私が初めて読んだのは、高校時代の英語のリーダーの教科書だったので、extraordinary(並はずれて)という単語が強く印象に残りました。男が語ったのは、並はずれて=バカみたいに良い子の物語だったのです。その良い子がどうなったのかは、読んでお確かめください。

 

 変な乗客を見かける小説といえば、芥川龍之介の「蜜柑(みかん)」もそうですね。お読みになった方も多いでしょう。三等室から二等室に入ってきて、勝手に窓を開ける無作法な少女。やがて彼女は、窓から蜜柑を投げます。その目的を知った時に、不愉快に思っていた語り手は「云(い)ひやうのない疲労と倦怠(けんたい)とを、さうして又(また)不可解な、下等な、退屈な人生を僅(わずか)に忘れる事が出来た」のでした。

 

 英文学者で鉄道史研究家の小池滋先生は、エッセイ集『「坊っちゃん」はなぜ市電の技術者になったか』で、「蜜柑」の少女の行動がいかに綿密な計画にのっとったものであるかを解説していて、彼女の利発さが理解できると、感動がより増します。

 

 皆さんも「そういえば、あれもそうだな」と戯れに記憶をまさぐってみてはどうでしょうか。

 

 番外編として松本清張の『砂の器』を挙げておきます。警察が犯人に迫るきっかけとなった「紙吹雪の女」が、とても変です。あんなことをする奴(やつ)はいないだろう、と思いますが、一読忘れがたいシーンになっています。

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