書籍
新・日本文壇史 9 大衆文学の巨匠たち
川西政明
平成24・2012年10月30日第一刷 岩波書店
B6判 カバー 297+2ページ 本体2800円
関連箇所
第五十九章 江戸川乱歩、松本清張、佐木隆三──犯罪者の眼
p272-291
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第五十九章 江戸川乱歩、松本清張、佐木隆三──犯罪者の眼
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日本における探偵小説翻訳の嚆矢とされるのは、文久元年にクリストマイエルの「死刑彙案」(裁判記録)を神田孝平が翻訳した「阿蘭美政録」だと言われている。これが初めて活字になったのは、成島柳北の主宰した「花月新誌」第二十二号(明治十年九月四日)から第三十六号(同十一年二月十四日)にかけてそのなかの一編「楊牙児ノ奇獄」が掲載された時だった。ミステリー小説研究家の川戸道昭は、「日本の雑誌で西洋の翻訳小説を掲げたのは『花月新誌』が最初であった」こと、「そこに掲載された作品がミステリー小説だった」こと、「「実況を精細に」表現する方法といい、この「談話体」といい、「楊牙児ノ奇獄」という作品には、近代日本文学の歯車を前進させる上で欠かせない重要な文章上の工夫が見てとれる」(「ミステリー小説の曙」)ことを指摘している。その内容は「西洋の或る大学の学生が、帰省する途中で殺される話で、それを談話体に訳した人は神田孝平さんであつたと思ふ。それが僕の西洋小説と云ふものを読んだ始であつたやうだ」(森鷗外「雁」)。原作者はオランダ人のJ・B・クリストマイエル(一七九四~一八七二)で、翻訳者の神田孝平は文政十三年九月十五日に美濃国不破郡岩手村に生まれた幕末の洋学者である。牧百峰(通称善輔)、松崎慊堂らに漢学を、杉田成卿、伊東玄朴に蘭学を学んだ。文久二年には幕府蕃書調所教授となり、明治時代には貴族院議員、男爵の肩書をもつ。
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▼岩波書店:大衆文学の巨匠たち
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