Nabari Ningaikyo Blog
Posted by 中 相作 - 2010.11.02,Tue
〔*10〕
日本の探偵小説
江戸川乱歩
横 溝 正 史 横溝正史は年少にして西田政治と共に、「新青年」の最も早い寄稿家であった。中途博文館に入って「新青年」その他の編輯主任であったが、そういう妨げがあったにも拘らず、創作に飜訳に、その作品の量は決して少なかったとは云えない。彼の主要傾向は情操的というよりも、幻想的と云うよりも、著しく怪奇的である。そして、水谷準などの作風が何かしら空に漂うような、メールヘン風な感じなのに比べて、この作者の怪奇はもっと現実的であり、直接人の心に喰い入る底の迫力を持っている。
彼の怪奇小説の主要作品としては「鬼火」「面影双紙」「蔵の中」「広告人形」などを挙げることが出来るであろう。彼は谷崎潤一郎の作品を愛することが深く、意識してか無意識にかその着想を借り来ることが屢々であるが、例えば「鬼火」と「金と銀」と、「面影双紙」と「或る少年の怯れ」と、「蔵の中」と「恐ろしき戯曲」とには、一部ではあるがその明かな類似を見るのである。
この作者には右の主要傾向の外に、「不思議な旅館」などの架空幻想の作品があり、又「山名耕作の不思議な生活」などのユーモアとペーソスの優れた作品がある。後者には(この作者の癖として)当時傾倒していた宇野浩二の色合が濃厚に漂っているのを見て取ることが出来る。彼の探偵小説としては長篇「塙公爵一家」「呪いの塔」中篇「芙蓉屋敷の秘密」短篇「丘の一軒家」「画室の犯罪」その他がある。飜訳には、ビーストンとマッカリイが最も多く、初期にはビーストンを礼讃し、その影響を受けたことが著しかったように思われる。
彼は今病を養う為に一家を挙げて東京を離れているのであるが、その孤独の境に於て、彼の情熱がひたすら文学に向って注がれていることは、「鬼火」「蔵の中」の恐ろしい迫力と、新工夫を施された名文とによって察することが出来るのである。
江戸川乱歩編『日本探偵小説傑作集』春秋社(昭和10年9月)
江戸川乱歩全集第25巻『鬼の言葉』光文社(2005年2月)
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