つづき。
えんえんとつづき。
いやー、乱歩生活二十年か、という話のつづき。
ですからまあ、すべてのはじまりは、名張市立図書館から乱歩作品の読書会で講師をやってくれ、と頼まれたことでした。
勘弁してくださいよ、と最初は逃げたわけですけど、ま、しかたないか、と次の年にはお引き受けしました。
だいたい私は、いまでもじつはそうなんですけど、人前でしゃべる、などということは、できれば避けたい。
最近ではかなり慣れっこになってきましたけど、とにかく人前でしゃべる、なんてことはしたくない。
伊賀の忍びの末裔として、できるだけ気配を消して生きていたい、と念願しているわけなんです。
それはそれとして、なんやかんやあって、乱歩のことでなにやっていいかわかんない、という名張市立図書館の悲痛な声を聞いて、そりゃまあこっちが思いきり叱り飛ばしたわけですから、悲痛な声のひとつやふたつ、ふつうに出てくるわけなんですけど、叱り飛ばした手前、知らん顔もできんな、というか、みてらんねーな、というか、あるいは、もったいない話だな、とでもいうべきか、そういった気にもなり、じゃあなんとかしてあげるから、ということで名張市立図書館の嘱託ということにしていただいたわけざんす。
名張市立図書館による乱歩関連資料の収集に欠けていたのは、なんといっても体系性への顧慮というやつでした。
資料した収集を体系化することが必要だな、ってんで、目録をつくることにしたわけです。
それからというものは、なんかもう、ものぐるいの日々であったな、と思い返されます。
なにしろ乱歩です。
相手は乱歩です。
なんつったって、平井隆太郎先生によれば、「資料整理へのマニア的な執念」のもちぬしであった乱歩の目録を、ほかならぬ乱歩の自己収集を継承するかたちでつくっちゃう、と決めたわけですから、そりゃもう死ぬほど大変。
しかしまあ、乱歩の自己収集というお手本があったわけですから、そういう意味ではとても楽ちん。
とにかく必死になって、狂気と妄執のとりことなって、目録つくったわけなんよ。
目録ったっていろいろありますけど、図書館がつくるとすればとりあえず、乱歩の著書目録だろうがよ、ということにはなります。
乱歩の著書がいちばんたくさんあるのはどーこだ? ということになると、むろん池袋の乱歩邸でした。
乱歩邸の土蔵に入ることをお許しいただければ、名張市立図書館が所蔵していない乱歩の著作もちゃんと調べることができる、ということはわかっていたのですが、しかし当時の名張市立図書館は、乱歩のご遺族からそれほど親しくしていただいている感じではありませんでした。
だから著書目録は後回しにして、とりあえず関連文献の目録からはじめよう、ということで作業を進めました。
名張市立図書館が開館当初から、ほんとにもうそこらの高校の図書委員にでもできることをふつうにやってれば、ごくあたりまえにできていたはずのことを、まったくゼロの状態から単年度事業としてやっつける、ということになったわけですから、そりゃもう大変よ。
しかも本業のかたわらでやるわけですから、とにかく時間をつくんないと、ってんで朝の4時には起きることにして、日常生活のリズムも一変してしまいました。
ようもあんなことができたな、といまは思います。
当初、とりあえず嘱託は三年、お願いいたします、と名張市立図書館から依頼されて、それでなんとか、一冊目と二冊目の目録は二年で完成させたわけですけど、もうだめ、このまま三冊目にはとても突入できない、と思って、本命だった著書目録の発行はちょいと先送り、ということにしてもらいました。
しかし、それにしても、いろんなことがあったなあ、と遠い眼になりつつ、つづく。
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