雑誌
層──映像と表現 5号
編:北海道大学大学院文学研究科映像・表現文化論講座
平成24・2012年4月25日 ゆまに書房
A5判 131ページ 本体1800円
初期江戸川乱歩論──「一枚の切符」・「二銭銅貨」の射程
押野武志
p104-121
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初期江戸川乱歩論──「一枚の切符」・「二銭銅貨」の射程
押野武志
探偵小説の成立と展開
初期江戸川乱歩の探偵小説の射程については、十分には解明されていない。初期の乱歩は、本格ミステリのコードを消尽し、富を使い切ったと言っても過言ではないのだが、その革新性を明らかにするのが本論の目的である。従来、ヴァルター・ベンヤミンを援用した都市遊民論からの評価や、変格ミステリのモダニズム文学としての位置づけはある程度なされてはいるが、本格ミステリの文脈で再評価してみたい。確かに、本論のもくろみは、乱歩のトリックの枯渇による変格への転向という通説からそれほど離れてはいない。だが、トリックをどのように消尽したのか、あるいは、乱歩のトリック偏重主義の帰結がどうなったのか、いまだ明らかではない。そもそも本家のエドガー・アラン・ポーとの連続性と断絶に関する究明が不十分である。乱歩作品の二〇世紀的探偵小説の先駆性と同時に、なぜそこから撤退し、変格ミステリに向かったのかも明らかにしたい。このことは、乱歩の描く探偵像の変容という側面と心理という不純な要素の発見という問題と密接に関連している。
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▼ゆまに書房:層 –映像と表現 vol.5
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