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平成24・2012年8月26日 産経デジタル
ドストエフスキー様、代わりに書きました!
大谷順
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★高野史緒箸「カラマーゾフの妹」(講談社)
2012.08.26
高野史緒さん
100年以上前に書かれた世界的名作『カラマーゾフの兄弟』の“続編”をドストエフスキーに代わって書いちゃったというから、まさに大胆不敵! 話題沸騰作の読みどころとは。(文・写真 大谷順)
--『カラマーゾフの兄弟』の続編(第2部)は、ドストエフスキー自身が執筆を予告していたのに、その前に死んでしまう
「そうですね。本編から13年後の物語で、(3兄弟の末っ子である)アリョーシャがテロリストになるという(ドストエフスキー自身の)設定は何となく知られていた話なのです」
--なぜ“続編”を
「『カラマーゾフの兄弟』は高校生のころに読んだのですが、長くて難解で何となく“モヤモヤ感”が残ったままだった。作家になって読み返しても、殺人の場面などに疑問が残る。(犯人が)後ろから殴っているのに(被害者は)あおむけに倒れているのはおかしいとかね。“ツッコミどころ”がたくさんあるんです(苦笑)」
--それで…
「ドストエフスキーは、もう一つの代表作である『罪と罰』では完璧な殺人シーンを描いているんですよ。つまり『疑問点』は『伏線』だったのではないか。それを第2部で明らかにするつもりではなかったか、と。そう思うと、だんだん妄想が膨らんできて…。こうしたことを踏まえつつ、『ミステリーの部分』や、登場人物の性格描写にこだわって書いたつもりです」
--世界的名作の“続編”を書くプレッシャーや批判については
「相手がドストエフスキーという超大物なので、逆に気になりませんでしたね。だって『(私の作品が)劣っている』と言われても当たり前ですから…。それに作家というのは研究者と違うのですから、バカと言われようが、『KY』と言われようが、いいんですよ。読者に面白く読んでもらえればね」
--“続編”を書いて改めてドストエフスキーの魅力を再発見した?
「100年以上前の作家なのに、すごく『現代性』がある。例えば、1980年代のアメリカで犯罪心理学をテーマにした作品が流行しましたが、彼はすでに、こうした要素を取り入れているのですよ。まるで『犯罪心理学』という学問の分野があるのを知っていたかのようにです」
--本作で受賞した江戸川乱歩賞は少女時代から「特別な賞」だったそうですね
「東野圭吾さんや栗本薫さんら、この賞から出られた方の作品を昔からよく読んでいましたしね。(応募の)背中を押したのは昨年の大震災。これまでは『やらなくて後悔する』タイプだったんですが、明日、何が起きるか分からない人生なんだから、やってみようかと。賞金で、(好きな)ロシアに行けそうです」
■あらすじ 『カラマーゾフの兄弟』から13年後の物語。3兄弟の次男で内務省特別捜査官のイワンは“父親殺し”事件に疑問を持ち、「真相」を解明すべく、故郷に戻り再捜査を始める。そこで再び、殺人事件が起き、事態は思わぬ展開になってゆく。「真犯人」はいったい誰なのか? 「妹」とは? 2012年、第58回江戸川乱歩賞受賞作。
■高野史緒(たかの・ふみお) 1966年、茨城県生まれ。茨城大学人文学部卒。お茶の水女子大大学院人文科学研究科修士課程修了。少女時代からロシア文学、音楽に傾倒。95年、日本ファンタジーノベル大賞最終候補作『ムジカ・マキーナ』で作家デビュー。主な作品に『カント・アンジェリコ』『赤い星』など。
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