つづきなのよ。
まず、日本図書館協会が発表した見解。
▼日本図書館協会:武雄市の新・図書館構想について(2012年5月30日)
ここには、こんなことも書かれておる。
当協会は指定管理者制度導入の実態調査から、経費削減により図書館で働く人たちの賃金等労働条件に安定性を欠く事態を招くことを問題点のひとつとして挙げてきました。安心して継続的に業務に専念できなくなる結果、司書の専門性の蓄積、一貫した方針のもとに継続して実施する所蔵資料のコレクション形成が困難になることの懸念です。利用者サービスの低下に繋がらないための労働環境が必要です。
労働関係のことは、ひとまずおいておく。
なぜか、というと、「図書館で働く人たちの賃金等労働条件」について、あたいはなにひとつ知るところがないからである。
ゆえに、そのあたりのことはおいとかざるをえないわけなんだけど、ともあれ、どんな理由によってであれ、「一貫した方針のもとに継続して実施する所蔵資料のコレクション形成が困難になる」というのは、図書館にとって大問題だ。
そして、一貫した方針のもとに継続的に資料を収集する、というのは、単なる無料貸本屋にはできないことでもある。
しかし、図書館がちゃんとやんなきゃならないことではあるのである。
たとえば、地域資料の問題がある。
先日来、とぎれとぎれに引用してきたけど、図書館法第三条の第一項から第三項まで、あらためて引いておこう。
第3条 図書館は、図書館奉仕のため、土地の事情及び一般公衆の希望に沿い、更に学校教育を援助し、及び家庭教育の向上に資することとなるように留意し、おおむね次に掲げる事項の実施に努めなければならない。
1.郷土資料、地方行政資料、美術品、レコード及びフィルムの収集にも十分留意して、図書、記録、視聴覚教育の資料その他必要な資料(電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られた記録をいう。)を含む。以下「図書館資料」という。)を収集し、一般公衆の利用に供すること。
2.図書館資料の分類排列を適切にし、及びその目録を整備すること。
3.図書館の職員が図書館資料について十分な知識を持ち、その利用のための相談に応ずるようにすること。
いのいちばんに、郷土資料があげられている。
名張市立図書館は、もちろん郷土資料の収集に努めていて、館内には郷土資料室も開設されている。
乱歩コーナーのとなりの部屋だ。
でもって、郷土資料を収集するためには、それなりの知識を蓄積し、アンテナを張りめぐらせ、人脈も形成して、みたいなことが必要になってくる。
しかも、収集すればそれでおしまい、というわけでもない。
図書館法にあるとおり、「図書館資料の分類排列を適切にし、及びその目録を整備すること」が必要になる。
さらには、「図書館の職員が図書館資料について十分な知識を持ち、その利用のための相談に応ずるようにすること」も要求される。
だというのに、指定管理者制度の導入によって、そういったあたりがおろそかになってしまうのではないか、というのが、日本図書館協会が表明した懸念のひとつなのである。
それはそうだろう。
先日のエントリに引いた新聞記事にも、同様の懸念が表明されていた。
▼2012年5月20日:図書館をめぐる懸念あれこれ
佐賀新聞の記事によれば、佐賀市は分館の運営をNPOに委託していたんだけど、また市の直営に戻した。
理由は、「(1)司書の専門性確保と図書充実には継続性が必要(2)教育施設は行政が運営すべき(3)本館との連携」だったという。
さらに佐賀新聞には、いわゆる専門家の「図書館は貸し出しだけでなく調査や相談機能も重要。職員には経験と専門性が必要で、経費節減が一つの目的の指定管理者では勤務態勢が短時間のシフト制になりがち」とのコメントも掲載されていた。
もうひとりのいわゆる専門家も、「長年勤続する司書でなければ、その図書館で本当に必要な書籍は何かを判断することはできない」、「コスト削減や入館者数ばかりを意識するだけでは、調査研究をはじめとする文化的機能が減退してしまう」としていた。
それはまあ、そんなものだろうな、と思う。
しかし、指定管理者制度が導入される以前にも、まともな運営ができてなかった図書館なんて、全国各地にごろごろしていたはずなのである。
先日引いた吉村昭の「図書館」から再度引用すると、「図書館に関することは自治体の選挙の票につながらぬらしく、ないがしろにされている市もある。それとは対照的に充実した図書館に入ると、その都市の為政者や市民に深い敬意をいだく」みたいなことだったわけなのね。
吉村さんは小説の取材で全国に足を運び、土地土地の郷土資料を博捜する、みたいなことを長くおつづけだったかただから、各地の図書館の「ないがしろ」と「充実」は、ふたつながら身をもってご存じだったはずであって、吉村さんがこのエッセイに述べていらっしゃるところは、そのまま図書館というやつの以前からの実態だったといっていいだろう。
佐賀新聞によれば、「全国の図書館で指定管理者制度を導入して運営委託されているのは8.6%(2010年度)」とのことで、ごくごくおおざっぱにいってしまえば、全国の図書館のうちほぼ一割が指定管理者制度を導入している、ということになるわけなんだけど、もしかしたら、もともと運営がないがしろだった図書館ほど、抵抗なく指定管理者制度を導入した、ということになるのではないか。
名張市の場合は、ほとんどなんの抵抗もなく、というか、ほとんどなにも考えることなく、それはそれはすんなりと導入した、という印象があるんだけど、導入してもしなくても、いやはや、ほんとにひどいことになっとるんだぞ。
あたいは、内心、もう少しましだろうな、と思ってたわけ。
ここまでひどいとは、さすがに思ってなかった。
ところが、なにしろ、これなんだもん。
な。
びっくりするやろ。
というより、衝撃を受けるやろ。
あたいはほんとに、先日も記したけど、乱歩のご先祖さまのことで伊賀上野城に登城したとき、この冊子のことをはじめて知って、筆舌に尽くしがたいほどの衝撃を受けた。
なんなんだろうな。
なんでなんだろうな。
名張藤堂家の関連文書、すなわち名張市の郷土資料が、なんで名張市立図書館によって収集されなかったんだろうな。
どうして伊賀文化産業協会に、名張市立図書館が入手して活用するべき郷土資料を購入していただき、その解読から、整理、体系化、刊行までのまるっとすべてを、手がけていただかねばならなかったんだろうな。
あたいはもうね、上野のお城で、顔から火が出るのをおぼえた。
ほんっとに、なんなんだろうな。
なんなんだろうな、この三重県名張市とかいう自治体は。
いや。
いやいや。
いやいやいやいや、もはや多くは語るまい。
名張市役所のみなさんにゃ、なにをぎゃあぎゃあいったところで、そもそも理解すらしていただけないかもしれんからなあ。
しかし、それはそれとして、せめて図書館がしっかりしないことには、名張市なんてまったくわけのわかんないあほなだけの自治体になってしまうぞ。
名張市立図書館が地域資料の収集と活用を充実させないことには、はるか万葉以来の歴史を有し、いっぽうで関西圏からの人口流入を受け入れてこんにちにいたった名張市なんて、アイデンティティの拠りどころを見失ってうわっつらをとりつくろうことしかできないような、ほんっとにわけのわかんないあほなだけの自治体になってしまうぞッ、とあたいはゆうとるんよ。
ところで、アイデンティティ、といえば、いやー、まさか名張市議会議員の先生のブログでアイデンティティということばに遭遇しようとは、と感服いたしつつ拝読いたしたのが、このエントリであった。
▼「名張市議会を変えてみせます!」 幸松孝太郎活動報告:第14回伊賀の手づくり作家展が今日と明日[アスピア]で開催!(2012年6月2日)
うーむ。
うーむうーむ。
いかんなあ。
いかんいかん。
これはいかんぞ。
このエントリの冒頭に「テーマ:まちなか再生」と記されているんだけど、まちなか再生、ということばをみるだけで、あたいはいまでも、おらおらおらおらと、まるでムバラク前大統領の死刑を求めて街頭デモで荒れ狂うエジプトの民衆のごとく、えらい勢いで殺気立ってくるのよ。
おら。
おらおら。
おらおらおらおらおらおらおらおらあッ。
アッサラーム、アライクム。
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