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Posted by 中 相作 - 2014.06.07,Sat
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毎日新聞
 平成26・2014年6月3日 毎日新聞社

SUNDAY LIBRARY:岡崎武志・評『本棚探偵 最後の挨拶』『虚ろな十字架』ほか
 岡崎武志
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SUNDAY LIBRARY:岡崎 武志・評『本棚探偵 最後の挨拶』『虚ろな十字架』ほか

2014年06月03日

 ◇マニアのこだわりがギッシリ

◆『本棚探偵 最後の挨拶』喜国雅彦・著(双葉社/税抜き2800円)

 次はどの手でくるかと、みんなドキドキ。お待たせ! マンガ家にして、希代の古本マニア・喜国雅彦による古本エッセイ「本棚探偵」シリーズ第4弾(完結)『本棚探偵 最後の挨拶』が出た。

 なにしろ、いまどき函入り。しかも、これまでにも月報を挟み、検印、蔵書票、2分冊など造本上の冒険をやり放題。今回はカラー口絵つき、ときた。文庫化されても元本の価値がますます上がるというシロモノ。

 内容もまた、濃い古本ネタが加速。只見「本の街」ルポに始まり、乱歩「少年探偵団」で小林少年が見せた「書遁の術」再現、古本魔王の日下三蔵氏宅探訪記など、炸裂しまくる。「気になる本はすべて買った。気にならない本も買った。欲しくない本まで買った」というから、そりゃ増える。

 ただ、この著者のいいところは、マニアの典型としての病弊を抱えつつ、閉じずに明るく開いていくのだ。古本バカを自覚し、戯画化しているため、読者は安心して笑っていられる。ありがたし!

◆『虚ろな十字架』東野圭吾・著(光文社/税抜き1500円)

『虚ろな十字架』は、東野圭吾の新作長編。葬儀社を経営する中原のもとに捜査一課からの電話がかかる。元妻の小夜子が何者かに刺殺されたという。「離婚していなかったら、私はまた遺族になるところだった」と中原。11年前には、8歳だった娘が殺された。小夜子の殺人事件は、単なる金目当てと思われたが……。いくつもの死、絡み合った過去、青木ヶ原樹海、死刑を求める審判は? 緻密に組み立てられたプロットが驚くべき結末を招く。

◆『口福だより』広田千悦子/絵・文(小学館/税抜き1400円)

 食べることの幸福を「口福」という。どちらも「コウフク」。広田千悦子の絵・文と広田行正の写真による『口福だより』は、四季折々の季節感を大切にしながら、食べる喜びを満喫するためのレシピを紹介する。「夏」は、干さないで作るカンタン「梅漬け」や、三浦半島名産の「タタミイワシ」と油揚げの炒めもの。「秋」には、ミョウガのお寿司が「疲れた体をしゃっきりとさせてくれます」。写真もいいが、著者の絵も色使いがとてもキレイ。

◆『とんぼさま』仁志耕一郎・著(幻冬舎/税抜き1500円)

SUNDAY LIBRARY:岡崎 武志・評『本棚探偵 最後の挨拶』『虚ろな十字架』ほか

 仁志耕一郎『とんぼさま』は書き下ろし時代長編。帯に「能もない 策もない 胆力もない この殿、生きる意味は、どこにあるのか。」とある。「極楽とんぼ」とあだ名のついた小笠原家十七代当主の長時。実在の武将だ。世は信長、信玄、謙信が覇権を争う戦国時代。名将の父の死で、松本平・深志城の城主になったが、かなり頼りない。そんなアンチヒーローが乱世で70歳まで生き延びる。その秘訣は? いやあ、長時のファンになりました。

◆『モンフォーコンの鼠』鹿島茂・著(文藝春秋/税抜き2000円)

 19世紀後半、パリは大規模な都市改造が実施されるが、鹿島茂『モンフォーコンの鼠』は、それより少し前、1931年パリが舞台。中世のままの都市に人口が密集し、糞尿と廃馬の処理場が郊外に。太った鼠が町を走り回る。そんなパリ地下道に暗躍する悪党、政界入りを狙うバルザックと思想家フーリエ、あるいはジャヴェール警部(レ・ミゼラブル!)と、地下と地上を巡り、虚実入り乱れてのてんやわんや。これは、さすがの鹿島ワールドだ。

◆『読まずにいられぬ名短篇』北村薫・宮部みゆき/著(ちくま文庫/税抜き900円)

 北村薫と宮部みゆきが古今東西、あらゆるジャンルから厳選して作る短編集も、これで5作目。『読まずにいられぬ名短篇』には、今回も幸田文、ジャック・ロンドン、中島敦、小池真理子など、ごった煮の18作を収録。目玉は第五部。松本清張「張込み」の後に、倉本聰のテレビ台本「武州糸くり唄」と続くのは、倉本が清張作品を下敷きに、江戸に置き換え「文吾捕物絵図」の一回分を書いたから。同様に倉本作「若狭 宮津浜」の元ネタは?

◆『「科学者の楽園」をつくった男』宮田親平・著(河出文庫/税抜き920円)

 宮田親平『「科学者の楽園」をつくった男』は、タイムリーな復刊。オボちゃん、STAP細胞論文捏造疑惑で、くり返しニュースネタとして報じられた理化学研究所。通称「理研」が作られたのは1917年。三代目所長・大河内正敏のもと、日本の科学の基礎を作った男たちがいた。鈴木梅太郎、朝永振一郎、寺田寅彦、仁科芳雄など、錚々たる顔触れが、この「理研」に集い、輝かしい成果を上げていった。魅力たっぷり、人間くさい理系物語。

◆『和食とはなにか』原田信男・著(角川ソフィア文庫/税抜き800円)

SUNDAY LIBRARY:岡崎 武志・評『本棚探偵 最後の挨拶』『虚ろな十字架』ほか

 “和食”メニューの代表格、すき焼き、てんぷら、寿司。これらは専門の料理人の手によるものではなく、庶民が長い歴史を経て考案したもの。庶民はすごい。『和食とはなにか』で原田信男は、西洋料理のブイヨンやソースに比べ、コンブやカツオの出汁は短時間で簡単にとれるが、その素材作りに驚くような時間をかけるところに和食の特色があるという。庶民の創意工夫と見えないところにかけるエネルギーによる和食は、確かに日本人の財産だ。

◆『宮本式・ワールドカップ観戦術』宮本恒靖・著(朝日新書/税抜き720円)

 いよいよ目前に迫るブラジルW杯。02年日韓、06年ドイツと日本代表として参戦し、主将も務めた宮本恒靖が、ここに『宮本式・ワールドカップ観戦術』を読者に伝授する。W杯は、サッカースタイルを競う「見本市」であり、リーグ戦とは違う視点でゲームを見よ。注目はルーニー、バロテッリ、ロッペン、アザールなど。日本代表の課題は立ち上がり。下がり気味だけど腰は引けていないDFの駆け引きが勝敗を決する。テレビ観戦の傍らにこの一冊。

◆『「はみ出し者」たちへの鎮魂歌』正津勉・著(平凡社新書/税抜き780円)

 日本では、万葉以来、詩人は死者をことばで偲び、それを詩のかたちで悼んできた。正津勉『「はみ出し者」たちへの鎮魂歌』は、与謝野鉄幹から石原吉郎、金子光晴、吉本隆明などが死者に捧げた、鎮魂の詩を読むことで、この世を生きぬく力を得る、ユニークな試みだ。谷川俊太郎が父・徹三を悼む「父の死」の末尾は「父はやせていたからスープにするしかないと思った」。これは「食葬」ということばがキーワード。裏返しの愛情なのだ。

◆『ちばてつやが語る「ちばてつや」』ちばてつや・著(税抜き集英社新書/760円

 マンガ家生活58年の間に生み出した作品を手がかりに、ちばてつやが自己を語り尽くしたのが『ちばてつやが語る「ちばてつや」』。何をやってもうまくできない「ぐずてつ」がマンガと出会い、天職を得る。「あしたのジョー」の最後は原作者(梶原一騎)に一任された。ジョーは死んだのか? その答えは本書に。「のたり松太郎」は愛すべき乱暴者を3、4回で書く予定が、力士となり26年の人気マンガに。知れば知るほど、ちば作品を読みたくなる。

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おかざき・たけし 1957年生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。近著『上京する文學』をはじめ『読書の腕前』など著書多数

※3カ月以内に発行された新刊本を扱っています

<サンデー毎日 2014年6月15日号より>
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