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Nabari Ningaikyo Blog
Posted by 中 相作 - 2013.10.12,Sat
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 平成25・2013年10月8日 毎日新聞社

SUNDAY LIBRARY:岡崎武志・評『不屈の春雷 十河信二とその時代』『よう知らんけど日記』ほか
 岡崎武志
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SUNDAY LIBRARY:岡崎 武志・評『不屈の春雷 十河信二とその時代』『よう知らんけど日記』ほか

2013年10月08日

 ◇あきらめない男の生きざまとは

◆『不屈の春雷 十河信二とその時代』牧久・著(ウェッジ/上下・各税込み1890円)

 高度成長の象徴たる東海道新幹線開業は昭和39(1964)年。「夢の超特急」と呼ばれた。東京オリンピックに先駆ける10月1日、「ひかり1号」は大阪へ。その晴れの出発式に、招かれなかった男が本書の主人公・十河信二。新幹線開業に「命がけで奔走し、実現に漕ぎ着けた」のは、元国鉄総裁の十河あってのことだった。

 牧久『不屈の春雷 十河信二とその時代』は、激動の時代に木の葉のように揺れながら、信念を貫き通した「新幹線の生みの親」を描く長編評伝。

 明治人の大志を抱いて愛媛から上京した若者が、鉄道院初代総裁・後藤新平と運命の出会いを果たし、鉄道畑へ。2人の夢は日本の鉄道を「狭軌」から「広軌」へ。新幹線建設はその「弔い合戦」だと著者は見る。明治の男たちはかくも熱い。

 さまざまな挫折が、明治、大正、昭和の時代と添い遂げるように十河にふりかかる。それでも「有法子(絶対にあきらめない)」の精神で97まで生きた。

◆『よう知らんけど日記』柴崎友香・著(京阪神エルマガジン社/税込み1785円)

 柴崎友香は『きょうのできごと』でデビューした大阪生まれの作家。今は東京で暮らす。『よう知らんけど日記』は、不慣れな東京での日常を、使い慣れた大阪弁でつづる。たとえば7月某日は暑い日。「冷房入れてない時間は汗がどうにもこうにも。なので、手ぬぐいを首のうしろから耳、でこにかけて巻いてみた」という。「でこ」は「おでこ」。逆に、いまだに子供が標準語をしゃべるのに慣れない。全体に「おっさん」が入っているのがおかしい。

◆『原発を止める人々』小熊英二・編著(文藝春秋/税込み2048円)

「民主主義を再稼働せよ」と書かれた紙を背負う人がいる。2012年6月29日。首相官邸前に「反原発」を訴える20万人が集結した。小熊英二編著『原発を止める人々』は、3・11震災と津波、原発事故以後、日本で巻き起こったデモ活動について、証言と記録から考察する。逮捕者が出た新宿「原発やめろデモ」では、柄谷行人が演説。「デモをすることで、日本の社会は、人がデモをする社会に変わる」と訴えた。巻末に反原発デモ・リスト付き。

◆『変格探偵小説入門』谷口基・著(岩波現代全書/税込み2415円)

SUNDAY LIBRARY:岡崎 武志・評『不屈の春雷 十河信二とその時代』『よう知らんけど日記』ほか

 探偵小説は、謎解きを主眼とする「本格」、怪奇、幻想、猟奇、SFなど「奇想」を主眼とする「変格」と二つに分かれる。谷口基『変格探偵小説入門』は、この「変格」を、現代エンターテインメント小説の源泉と位置づけ、その流れを作品紹介とともに追う。大正末期から昭和初期、雑誌『新青年』を中心に、「前代未聞の奇観」が出現し、探偵小説の間口を一挙に広げる。乱歩に横溝、小酒井不木、夢野久作、城昌幸などオールスター揃い踏み。

◆『傷』堂場瞬一・著(講談社/税込み1785円)

 プロ野球界を代表する強打者が、膝の手術を受けたところ、医師がわざと失敗したと刑事告訴する。日本一の腕前と言われた医師は行方不明で大騒ぎに。この事件を担当するのが、交番勤務を経て刑事なりたての青井由記。男性ながら「ゆきちゃん」と呼ばれる。堂場瞬一『傷』は、取材を始めたアラサーの社会部記者・理恵と青井という下っ端コンビが、真相解明に懸命になる姿を描く。スポーツ界と医療、警察とマスコミという組み合わせが新味。

◆『佳代のキッチン』原宏一・著(祥伝社文庫/税込み680円)

 ワゴン車に厨房機器を積み込んで、西へ東へ。原宏一『佳代のキッチン』は、移動調理屋を営む若い女性の物語。客が材料を持ち込んで、1品500円で佳代が調理する。お金を貯めて、幼い頃に姿を消した両親を捜しているのだ。キャベツ丸ごと1個、次に卵10個を持ち込んだ小1の坊や。不審に思って後をつけたら……。夜の京都では、和服の女性が、賄いで作ったカレーを分けてくれという。料理がもつれた謎を解いていくという新趣向の小説。

◆『日々の100』松浦弥太郎・著(集英社文庫/税込み714円)

『日々の100』の著者・松浦弥太郎は、雑誌『暮しの手帖』編集長でエッセイスト。女性から絶大な支持あり。本書では見開きに1品、写真と随筆で、日々の生活で大切にしている品を取り上げる。写真も著者。祖父の形見の腕時計はロレックスの金無垢。祖父の名は金太郎。まとめ買いした50年代製リーバイスのジーンズ。これに合う服が装いの基準だという。本やペーパーナイフ、匙にジャム。好きなものに囲まれた生活の豊かなこと。書き下ろし3編を加える。

◆『歌舞伎町ラブホテル 夜間清掃員は見た!』山谷哲夫・著(宝島SUGOI文庫/税込み630円)

SUNDAY LIBRARY:岡崎 武志・評『不屈の春雷 十河信二とその時代』『よう知らんけど日記』ほか

 ドキュメンタリー映画監督の著者は、在日コリアン脱税の実態をつかむため、身分を隠し、歌舞伎町のラブホテル清掃員の職を得て働き始めた。山谷哲夫『歌舞伎町ラブホテル 夜間清掃員は見た!』は、客には見えない裏側を暴き尽くした、興味津々のルポ。スキンのことは「キャンディー」と呼ぶ、驚愕の客室の落書き帳の中身、コップは消毒せずに「消毒済み」の袋をかぶせるなど、知ってどうなるものでもないが、とにかく面白い。

◆『枝雀らくごの舞台裏』小佐田定雄・著(ちくま新書/税込み840円)

 1999年4月19日は、上方落語の「爆笑王」桂枝雀が死亡した日。枝雀に新作「幽霊の辻」を提供するなど、座付作者であるとともに、深い結びつきにあったのが小佐田定雄。『枝雀らくごの舞台裏』では、枝雀持ちネタから精選した48を、演題別に解説し、その舞台裏を明かす。同じ演題でも、各種音源や映像で違いを指摘するのも著者ならでは。「いらちの愛宕詣り」は、ストイックだった芸風の小米時代にぴったりだったなど、見巧者ぶりに感嘆。

◆『キレイゴトぬきの農業論』久松達央・著(新潮新書/税込み735円)

 久松達央は茨城県土浦市「久松農園」で、有機野菜を栽培、顧客と直接取引をする。著者は、帝人で輸出営業に従事し、1999年脱サラして農業へ転身した異色の人。『キレイゴトぬきの農業論』は、ロジカルに農業を追求した著者ならではの、まったく新しい農業論。なにしろ、有機栽培をしながら、有機野菜が「安全」は誤解、というのだ。畑の生き物を多用に保ちつつ、「健康な野菜」を作るには? 農業にまつわる迷妄を解く書。

◆『ダメダメな人生を変えたいM君と生活保護』池上正樹・著(ポプラ新書/税込み819円)

 45歳、ひきこもりのM君が、自立に向けて一歩を踏み出す『ダメダメな人生を変えたいM君と生活保護』。「石ころになりたい」「いい道はないものかと焦っています」が口癖の彼と行動をともにした池上正樹は、目の前の「一人」を大切にすることが社会の原点だと言う。車を運転すれば、道を間違って落ち込む。思い切って株を買えば、その会社が破綻する。でも、人生には何回だってチャンスはある。M君はようやくチャンスの切れ端をつかんだのだ。

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おかざき・たけし 1957年生まれ。高校教師、雑誌編集者を経てライターに。書評を中心に執筆。近著『上京する文學』をはじめ『読書の腕前』など著書多数

※3カ月以内に発行された新刊本を扱っています

<サンデー毎日 2013年10月20日号より>
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